† 文芸理論 †

文学テクストにおける「視知覚」性の重要性ーー円城塔、八木保におけるテクストのデコレーションについて

 二十一世紀前半である現在、純文学において「テクストの力」とは何なのだろうか? 無論、物語性を持った緻密な構成力や、豊穣なメタファーによるイメージ喚起力なども依然重要な戦略素ではある。だが、我々はここであえて、「テクストの視覚性」の重要性について語っておこう。実は我々は何か本のページを読む時、常にその全体的な「レイアウト」を無意識にであれ意識しつつ読んでいる。漢字の並び、外国語の挿入、引用、数字、あるいは図、挿絵……こういったページのデザイン性は、間違いなく「読む」行為における誘因力の一つである。以下に、こういったテクストの視覚性を考える上で貴重な資料を紹介しよう。

(1)【デザイナー八木保における、「五感で感じられるデザイン」としてのテクスト性】


画   像 231

何かを書くときに、テクスト全体のデザインを意図する手法がある。
私はその方法論に以前から、例えば小説を書いたりする上で関心を持ってきたのだけれど、ようやく何かヒントになりそうな宝物を発見できた。

画   像 228

テクストのデザイン。
使う言葉とか、登場する舞台、交わされる言葉すべて、物語である以上は書き手が自由にデザインできる。

画     像 227

何か、このページにはレイアウトとして私の目に滋養を与えるような力が宿っている。
ものの配置というより、選択されている素材は身の周りにあるものなのだから、おそらくその撮影の仕方、切り口にあるのだと思う。
哲学書や神学書、あるいは長大な小説でも良いのだけれど、それらはどのページも同じように数知れない文字が書き込まれていて、少し私たちを疲れさせたりしないだろうか?
このページは、柔らかく、ソフトに私の目に馴染むのだけれど、そのようなページが入っていれば、その本の有機的な全体に一種の「弛緩」を生み出すことができるように思う。
目で感じられるテクストという、新しい読み方の本が、あるいは章が、ページが、存在すればきっと楽しいと思うのだ。

画    像 233


「読むテクスト」から、「見るテクスト」、あるいは「感じるテクスト」というべきかもしれない。
デザイナーの八木保は、「五感で感じられるデザイン」を重視している。
なにかアイディアを閃くと、それが消え去ってしまう前に「直観」を信じて、「素早く」作品化してみることの必要性も語っていた。

私は以前から、メンズファッション誌『HUgE』のページのレイアウトに「テクストの視覚的編成」のために必要な操作子が眠っているような気配を感じ続けてきた。
私がその雑誌を買うのは、定期的にDiorのデザイナーや、最近活躍している若手のアーティストたちの声が聴こえる、というだけでなく、何かこの雑誌の「ページそのもの」にデザイン性を感じていたからかもしれない。

そういった感覚を、文学に活かすことは常に可能だと考えている。

(2)【円城塔のテクストにおける視覚的編成】


 円城塔氏の作品には、テクストの視覚性を考察する上で豊かな参照価値を我々に提供してくれるだろう。とはいえ、我々は既にジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』や、クロード・シモンの『農耕詩』、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『伝奇集』、ステファヌ・マラルメの『骰子一擲』など、テクストの「異種混淆」の際立つ古典的な先例を幾つか挙げることができる。にも関わらず我々が現代日本文学の担い手である円城氏に注目するのは、彼がテクストの「視覚性」について高度な戦略を駆使しているからだ。以下に、その視覚的効果が再骨頂に達している短編集『後藤さんのこと』から、幾つか印象的なページを紹介しよう。

IMG_5681.jpg

 文字のカラー自体を変換し、それを登場人物の「差異」として提示する、まさに視覚性を逆手に取ったページである。このページには、ルネ・マグリットの匿名化された紳士たちの群れに近接した奇怪なイメージを受けもする。

IMG_5682.jpg

IMG_5683.jpg

 一見、何気ないテクストであるが、左側は「注釈」で構成されている。無論、これは作者に拠る「原註」の物語内への挿入である。ボルヘスの短編の場合、「原註」は全て物語が終わった後に貼付されているが、円城氏の場合、内部にそのまま大胆に吸収されている。

IMG_5684.jpg

IMG_5685.jpg

 文の配置を「図形」としてデザインした装飾的なページである。理系的な彼の「ページの美学」の一端が窺える。

IMG_5686.jpg

IMG_5687.jpg

 この両開きのページだけ観れば、スピノザの『エチカ』についての評論とも読まれかねないが、無論「小説」である。

IMG_5688.jpg


IMG_5689.jpg




「参考文献」


八木保の仕事と周辺 (Director and Designer SCAN)八木保の仕事と周辺 (Director and Designer SCAN)
(1997/08)
八木 保

商品詳細を見る



後藤さんのこと (想像力の文学)後藤さんのこと (想像力の文学)
(2010/01/07)
円城 塔

商品詳細を見る





関連記事
スポンサーサイト
*Edit TB(0) | CO(0)



~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


Back      Next