† 映画 †

『ブーリン家の姉妹』 イングランド国教会成立までの秘められた激動 

ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]
(2009/04/01)
ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン 他

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ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンが競演した『ブーリン家の姉妹』を観ました。この映画はイギリスがカトリック教会と袂を分かち、イングランド国教会が成立するまでの王室のスキャンダルを描いたものです。物語の中でも非常に重要な役割を持っているヘンリー8世はイングランド王室最高のインテリと称され、ラテン語、スペイン語、フランス語に堪能な知的な王でした。彼は熱心なカトリックの信徒でもありました。
しかし、王妃であるキャサリン・オブ・アラゴンが男児を出産しなかったことに失意を感じた彼は、男児を生んでくれる他の女性たちに関心を抱きます。彼を魅了したのが、映画での二人のヒロインである、ブーリン家の容姿端麗な二人の姉妹アンとメアリーです。この二人のどちらが姉であるかについては研究者の間でも意見が分かれていますが、映画ではナタリー演じるアンが姉でした。映画では、アンは野心的で知性に優れ、妹のメアリーは健気で素朴、純真といった性格の違いが見られました。
映画を素直に観ると、二人ともヘンリー8世という“我侭”な王に運命を翻弄された悲劇の女性として受け取られると思います。アンもメアリーも、ブーリン家の男性たちの出世のために王に接近するように煽てられた存在として捉えられます。ただ、史実的にはアンにはやはり野心家、策略家といった側面もあったようです。
スカーレット・ヨハンソンが演じたメアリーは、本当に純真で心優しい女性でした。宮廷に顔を出す娼婦という悪評とはまるで異なる、一族にただ貢献したい一心で王に近寄った女性だと感じました。メアリーはヘンリー8世の寵愛を受けて男児を身篭るのですが、嫉妬に駆られた姉アンが彼の前に躍り出て、恋心を奪ってしまいます。結果的に妹は田舎へ送還され、ヘンリー8世はアンに王妃キャサリンと正式に離婚するよう迫られることになります。
ナタリー・ポートマンに対して、私は非常に知的なイメージを抱いているので、誘惑しているというよりは「計算している」という印象を持ちました。ただ、紆余曲折の激しいアンを演じたナタリーの演技は、特に涙を流す寸前になっている時のものが最も印象的だったのですが、非常に心を打つものがありました。宮廷の美しく上品な意匠が似合う容姿なだけに、悲劇へ降下していく時の完全にシンクロされた演技は私の胸に急迫するものがありました。
ヘンリー8世はアンの願いを聞き入れて、カトリック教会(時の教皇はクレメンス7世)との関係を悪化させます。ローマは離婚を禁じていました。アンと結婚するために、彼は1534年に「国王至上法」を制定し、事実上カトリックから離脱します。38年には破門されているので、ここにイギリスが伝統的なカトリックから分かれ、英国国教会としての道を歩む形になりました。国家まで巻き込んだ宗教間のこうした新しい分派形成の背後には、王を魅了する女性たちのドラマがあったのですね。

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激動を生きたアンに対して、妹のメアリーは性格がまだ穏健であったためか、後に恋愛結婚をして平穏に暮らします。この作品では、「王」と、「出世の機会を窺う貴族階級」という社会構造が浮き彫りになっていますが、そうした階級構造が生み出す「権力」に自由を奪われた女性という視点で、ブーリン姉妹を把握することができるかもしれません。というのは、二人ともヘンリー8世以外に、それぞれ真の恋愛の相手を見出していたわけであって、「地位」や「名誉」への強い想いが、それらとは異なる道を歩ませたからです。
とはいえ、アンはエリザベス一世の実の母親にもなるわけですから、歴史に名を残すには十分すぎるほどの結果を残してもいるわけです。どちらも同じブーリン家の女性ですが、やはり最後に運命を決めたのは姉妹の性格の違いだったのではないでしょうか。メアリーは苦難も静かに受け止め、状況に身を甘んじてグッと耐えるタイプですね。アンは苦難を発火源にして、状況を革新し、自分を環境の中心に置いて自分でも行き先が定かではない大きな渦を作り出していくタイプです。どちらもそれぞれ魅力的な性格ですが、この時代、この状況下ではメアリーの方が結果的に平穏な生活へと行き着いたようです。
アンが処刑される時、叛逆や姦通罪のほかに、「魔術」に関わったという記述がありますが、これについては映画では具体化されていませんでした。史実によれば、アンは先天的な多指症で、左手に小さなもう一本の指があったそうです。本人はこれを幼い頃から非常に苦悩の種にしており、周りから冷淡な目で見られることもあったようです。
この映画は、映像、衣装という点でも傑出して美しい作品でした。ほとんど、どの場面でも中世の宮廷肖像画になり得るポイントで撮影されています。何度か一瞬、これを写真にするだけでも作品として成立すると思われるような箇所もありました。宮廷社会に翻弄されながら、互いに嫉妬や憎しみが複雑に入り乱れる中、それでも“姉妹の絆”を保とうとした女性の物語としても観る価値があると思います。

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