† 建築学 †

これだけは知っておきたい近現代の代表的建築20作品ーーウェインライト・ビルディングからライヒスタークまで

近現代建築 (アート・イン・ディテール)近現代建築 (アート・イン・ディテール)
(2011/10/07)
アンソニー ハッセル、ジェレミー ハーウッド 他

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本書は近現代建築の最重要例を知りたい読者には、最上の入門的ガイドブックになるだろう。写真も観易く、細部の特徴をペーパーカットした窓越しに観察できる丁寧な作りの本である。
私が本書に紹介されている近現代建築家の中で、特に惹かれたのはこの四人だった。

・ポンピドー・センター(リチャード・ロジャース/レンゾ・ピアノ)
・ブルジュ・アル・アラブ(トム・ライト)
・ドイツ連邦議会新議事堂[ライヒスターク](ノーマン・フォスター)



どの建築家もそれぞれ数百冊単位で専門書が刊行されるほどの重要性を持っているだろうが、特にロジャースとピアノの作品が持つ斬新さ、それにブルジェ・オブ・アラブの「楽園」的な立地条件、フォスターの柱の存在しないクリスタルのビルなどは、まさに興味の尽きない作品である。

※建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞の存在は、今後新たな建築家について学習していく上で重要だと思われる。

※建築家は小説家や画家と異なり、政府の要望によってアイディアの変更を余儀なくされることもある。この点を踏まえて建物を捉えると、彼らの努力が理解し易いように感じる。






①ウェインライト・ビルディング(ルイス・サリヴァン)


サリヴァンは20世紀アメリカ建築界の主流派であった「シカゴ派」に属する。このグループは急激なビルの高層化に巧く対応していった。彼はシカゴの「アーツ&クラフト運動」に参加し、パリでの古典的教育も作品に活かしている。
まるでヨーロッパの古い家具のようなビルと形容すべきだろうか。サリヴァンはこのビルをわずか3分で設計しているが、エレーベーターが導入されている点など当時は斬新であった。
20世紀初頭のアメリカの建築家たちは、03年に刊行された『現代的な公共芸術あるいは美しい都市』でテーマになった「都市の美観運動」に多大な影響を受けている。サリヴァンはグロピウスの「バウハウス」の理念とも一致する「フォルムは機能に従う」を信じていたが、他方でそこに装飾性も漂わせる努力をしていた。


②サグラダ・ファミリア教会(アントニ・ガウディ)

サグラダ

ガウディは98年から、ヴァチカンへの列聖運動(聖人審査)が開始されている。彼はこの知らぬ人のいない教会を、「巨大なオルガン」(塔の中に鐘を設置している)として構想していた。ゴシック様式に影響を受けつつ、それは最早常軌を逸した形態となり、どこか奇妙に「グロッタ」に近付いている。信徒が12000人参加可能な礼拝堂である。


③バウハウス(ヴァルター・グロピウス)


近代建築といえば、私はすぐにグロピウスのバウハウスをイメージする。つまり、バウハウスの持つ無機質さ、シンプルさ、合理的機能主義の先鋭化、積み木・テトリス状の幾何学的空間――これが当時、どれ程衝撃的な前衛的建築物であったかということを知るのは依然重要であろう。
当時は新古典主義と呼ばれ、新しい機能的な部分をデザイン的な様式で覆い隠していた。しかし、バウハウスは初めてその「機能的な部分」を前景化したのである。この「機能性をデザインの前に押し出す」思考回路は、後述するリチャード・ロジャース/レンゾ・ピアノによる「ポンピドー・センター」で更なる先鋭化を遂げることになる。当時の人々にとって、バウハウスはやはり衝撃的で極めて魅力的な建物であったのだろう。
形態は、グロピウスにおいて完全に機能に従属した。全ての建物は直線的で、箱型平面図として把捉される。私は何故か、グロピウスの建物を観ていると、押井守の映像作品『スカイ・クロラ』を想起する。あの作品が持つテーマを捨象して、全て「空間/人物」のみを観察すると、極めて無機質で、単調で、感情の起伏に乏しく、白っぽく、合理的かつ機能主義的である――すなわち、グロピウス的なのだ。私が奇妙にもバウハウスに惹かれつつ、抵抗感も覚えるのは、きっとこの白っぽいクールな作品に奇怪なノスタルジーを見出しているからであろう。


④クライスラービル(ウィリアム・ヴァン・アレン)


30年に完成した「商業にためのカテドラル」と呼ばれ、20年代アメリカの「高層建築ブーム」のシンボルとして名高い(当時、このビルが最高だった)。
アメリカの工業デザインに、アレンがフランスのエコール・デ・ボザールで学んだアールデコ様式が組み合わされ、けして機能だけを重視しない美的なデザイン性が醸し出されている。自動車会社社長ウォルター・クライスラーの依頼で建てられ、頂上部分のステンレス・スチール製のドームが印象的である。


⑤サヴォア邸(ル・コルビュジエ)

Villa  Savoye

コルビュジエはイタリアの後期ルネサンス建築家に属するパラディオのヴィッラ(郊外の邸宅)を20世紀において発展させた。
芝生の上に浮かんでいるような白い建物の手法は、「ピロティ」と呼ばれる。
この作品は彼のいう「近代建築の五原則」を全て体現した建物として極めて重要である。白と黒を基調にしたスタイリッシュな内装で、屋上には庭園がある。各フロアも柱とスラブ(コンクリート床面)で構成された、静謐な空間を実現している。


⑥落水荘(フランク・ロイド・ライト)

Fallingwater.gif

ライトはアメリカ建築の指導者の一人で、20世紀建築を考える上で最早避けては通れない重要人物である。35年に建てられたこの建物は、あえて山の中のゴツゴツした岩(小川が流れている)のある難所を立地場所にしている。エドワード・J・カウフマンのための邸宅であるが、オーナーはこの場所に不満を感じており、「カビが生える家」と皮肉ったといわれる。また、二階のバルコニーが折れたりするという問題点もあり、建築史に残る名作であるものの、依頼者に満足を必ずしも与えなかったようだ。
「風景」と「建築」を一体化・融合させることがライトのいう「有機的建築」であり、この概念は21世紀のエコ環境に即した住居空間を構想していく上で喪極めて有益といえるだろう。


⑦ジーグラムビル(ミース・ファン・デル・ローエ/フィリップ・ジョンソン)


ローエはバウハウスにおけるグロピウスの後任(次期校長)であり、ドイツ・モダニズム建築の代表的存在である。しかし、このグループは30年代にアメリカへ移住している。38階建てで、160メートルあるビルだが、やがて「ありきたりのオフィスビルの典型」となっていく。
20年代のモダニズム建築には「物事を引き算させる力がある」と表現されたが、ローエの「バルセロナ・パビリオン」と、グロピウスの「バウハウス」はまさにその決定的な例である。


⑧グッゲンハイム美術館(フランク・ロイド・ライト)


元は、抽象芸術のための美術館であった。外観から、ソフトクリームをイメージさせる。内部も螺旋状に回廊が設けられており、階下の画廊が見渡せるようになっている。一般市民には好評だった。


⑨ソーク研究所(ルイス・I・カーン)


アッシジのフランチェスコ修道院と、バウハウスを組み合わせたような建物である。どの部屋からも海が見えるように設計されており、中庭のコンクリート壁などには意図的に「雲」を作り、平面の単調さを巧く回避している。庭には泉があり、静謐な環境が志向されている。
ルイス・カーンはポストモダン理論家としても重要である。


⑩メトロポリタン・カテドラル(オスカー・ニーマイヤー)


近現代建築の最重要リストの中に、教会建築が二つも入っているのは興味深い点である。ニーマイヤーのこの建物は、ガウディの建築と並んで重要である。
聖堂は地下に存在し、入口部分の丘は掌が天空に掲げられたような形態になっている(これは茨の冠などとも表現される)。
4000人の信徒が参加でき、天井までは35メートルの高さを持つ。アルフレート・チェスキアティ制作による三体の天使像が中空に吊り下げられているが、このうちの一体は4.25メートルにもなり、その重さは300キロである。
来歴としては、1955年にブラジリアがブラジルの新首都になると共に革新的な都市計画者が必要となり、その主任建築家として選ばれたのがニーマイヤーであった。彼はコルビュジエの弟子の一人であり、50年代になってようやく自分のスタイル(熱帯性気候などと表現されている)を見出した。彼は64年に共産主義を疑われてフランスに亡命している。


⑪シドニー・オペラハウス(ヨーン・ウツソン)


「オレンジの皮」がインスピレーションにあるといわれている。或いは、「胡桃と割った時のカラとミ」の構造(入れ子構造)を反映させている。
この建物では設計にコンピューターが導入されていた。


⑫ポンピドー・センター(リチャード・ロジャース/レンゾ・ピアノ)

Centre  Pompidou

バウハウスと同じくらい20世紀建築を考える上で重要だと考えられる建物である。この建物は革新的なデザインを希求していた政府のコンペに応募した二人の案によって実現されたものであり、その注目すべき概念とは「建物の内蔵部分を全て外に露出させよ」というものである。すなわち、ダクトやインフラが建物の外に丸裸になっているわけだ。

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この巨大なショッピングセンターは、今やパリのランドマークになっている。二人は60年代のアーキグラムや未来派からの影響も受けている。従来の幾何学的で機能主義的なグロピウス的建物の定式を覆すその手法は、「はらわた様式」とも表現されたが、二人にとっては「オモチャ」を作る時のような発想で設計されている。
この建物の当時の過激な前衛主義的理念を前にすると、我々は歴史に名を残すほどの建築は「従来の理論体系に囚われない赤子のように無垢な破壊願望」を持っているのではないか、という想念に襲われる。実際、本書でもこの建物だけそれまでの流れから明らかに浮いているのである。


⑬藤沢市秋葉台文化体育館(槇文彦)


80年代日本の代表的建築として名高い作品。
槇はメタボリズム(脱モダニズム、脱機能主義)の主要メンバーの一人で、細部には伝統文化の手法が反映されている。彼はそこに欧米で学んだモダニズム理論を組み合わせ、大作を完成させた。


⑭ロイズ・ビルディング(リチャード・ロジャース)

Lloyds  Building2

この作品の持つクールな雰囲気には類い稀なるものがある。
ロンドンにおけるハイテク建築のシンボルとなり、「設備や機能は全て外に出す」というポンピドー・センターでの概念が応用されている。メタリックな銀一色の建物群であり、イギリス的な紳士さと一種の冷酷さすら感じさせる。

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Lloyds  Building

屋上に工事用クレーンを意図的に残存させる手法などもユニークだ。
ロジャースは後期モダニズムの代名詞にもなっているが、この時代にあってロイズ・ビルディングは徹底的にあえてモダンを貫いている。


⑮ヴィトラ・デザイン・ミュージアム(フランク・O・ゲーリー)


ゲーリーといえば、グッゲンハイム美術館も有名だが、本書ではこれが「脱近代建築」の記念碑として掲載されている。
外観を見ると、やはりサクッと積み木が直方体に衝突してきたようなコラージュ状の面白さを感じる。バウハウスをバラバラに分解して、瞼を閉じたまま巨人が粘土状に組み合わせたような形態だ。ただし、彼をデリダ的なディコンストラクティビズムの理論で解釈するという方法はミスリードである点を注意しておかねばならない。


⑯ブルジュ・アル・アラブ(トム・ライト)

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アラブのドバイにある五つ星ホテルで、ジュメイラ海岸沖合いに三年がかりで人工島を造り、そこに建てられている。人工島には浸食防止のために地盤をコンクリートで塗り固めている。
客室数は202と意外に少ないが、世界有数の超高級ホテルのひとつに入っている。内装の豪華絢爛な様相は、時に建築批評家の批判を招くこともある。

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برج العرب   2

ただ、そこだけ島になっている環境というのは一種の「楽園」の模型をイメージさせるものでもあり、外観を見るとどこかシャトル発射施設のようなクールさを宿してもいるので、私はこの建物は好きだ。


⑰ペトロナス・ツインタワー(シーザー・ペリ)


98年から04年まで世界最高452mを誇る超高層ビルだった。
「空に上る入口」、「無限への扉」などがペリのイメージにあった。
内部はイスラム教の伝統的な様式が採用されている。現在の世界最高はゴールドマン・サックス・タワーであるが、「高さ」を競合することに私はあまり重要性を見出せない。


⑱チバウ文化センター(レンゾ・ピアノ)

Jean-Marie  Tjibaou Cultural Centre

ニューカレドニアに存在する、先住民カナク人たちの文化を基調にした建物。
コンセプトには、「未完成」(永久に工事中である建物)があり、その点ではロジャーズと共通する(ポンピドー・センターは彼との共同制作)。

Jean-Marie  Tjibaou Cultural Centre2

ピアノは特に「伝統文化」もそこに組み合わせて設計する。カナク人の伝統的家屋ではヤシの木の葉が使われるが、ピアノはイロコという硬材とスチール板で扇状の外観を造った。このプロジェクトには人類学者のチームも参画している。
ちなみに、関西国際空港はピアノが設計。


⑲ドイツ連邦議会新議事堂[ライヒスターク](ノーマン・フォスター)


現代建築を考える上でフォスターは最重要。
これは新生ドイツのdemocracyを象徴して欲しいという政府の依頼によって建築された。「透明で開かれた議会政治」をテーマに、周囲の環境へも配慮している。


⑳スイス・リ本社ビル(ノーマン・フォスター)


「クリスタル・ファルス」、「ガーキン(小キュウリ)」などが愛称。
内部に柱が存在しない。
フォスターは高層オフィスビルのパイオニアである。


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