新古典主義における「ギリシア的回帰」の準備――ヨハン・J・ヴィンケルマン『古代美術史』
ヨハン・J・ヴィンケルマン(1717-1768)はプロシアに生まれ、1750年代にカトリックに改宗している。彼は古典古代への非常に強い愛に溢れ、彼にとっては一昔前の様式になるバロックを唾棄した。1764年に出版した主著『古代美術史』は、18世紀のヨーロッパに巨大な影響を与え、「新古典主義」を実質的に用意したと評価されている。この本の中でヴィンケルマンが提唱したのは、「古代ローマ」という「イタリア起源」の文化を称揚することから、「古代ギリシア」という汎ヨーロッパ主義的な「西洋共通の起源」へと回帰する重要性であった。
本書において、初めて「歴史」と「美術」が結び付いて本格的に論じられた点で、ヴィンケルマンこそは「美術史」における「様式」の概念を明確に準備した人物である。そこでは、ギリシア文化はedle Einfalt und stille Grosse(高貴な単純さと謐かな偉大さ)と評価され、マニエリスム‐バロック的な「逸脱したもの」、「歪み」から、正統的で落ち着いた、規範的となるギリシアへ戻ろうと呼びかけている。
今日いうところの「芸術におけるクラシック(古典的な)」という概念が成立したのはヴィンケルマンの功績によるものであり、ここではフランスの王立絵画彫刻アカデミーでも「規範」として模写対象になっていたプッサン、ラファエルロ、プラクシテレスなどが重視されている。彼が評価するのは古典にどれ程忠実であるか、どれ程深く学んだかである。ダヴィッドやアントニオ・カノーヴァは深く古典から学んだ点で、ヴィンケルマンからも高く評価されている。彼にとっては、今日いうところのアウトサイダー・アートなどは論外であったろう。
彼は絵画表現における人物の動作の「激しさ」を忌避し、「最小限の動作」で得られる落ち着いた、穏やかな「美」を信じた。これはおそらく、カトリック信仰が「心の平安」を重視する宗教体系であることにも起因している。ヴィンケルマンの理論は、何が芸術において高尚であるのか、芸術を真に学ぶとはどういうことなのか、アマチュアと正統的な芸術家の決定的差異とは何であるのかといった、今日でも適用可能なテーマを我々に発信している。いつの時代でも重要なのは「古典教育」であり、「高貴さ」なのである。
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