† 現象学  †

マルティン・ブーバー『我と汝・対話』

我と汝・対話 (岩波文庫 青 655-1) / マルティン・ブーバー

岩波文庫
我と汝・対話

ISBN:9784003365519 (4003365518)
マルティン・ブ-バ-・植田重雄
岩波書店 1979/01出版
15cm 274p
[文庫 判] NDC分類:134.99 販売価:\840(税込) (本体価:\800)



孤高の宗教哲学者ブーバーによれば,世界は人間のとる態度によって〈われ‐なんじ〉〈われ‐それ〉の二つとなる.現代文明の危機は後者の途方もない支配の結果であって,〈われ〉と〈なんじ〉の全人格的な呼びかけと出会いを通じて人間の全き回復が可能となる.対話的思惟の重要性を通じて人間の在り方を根元的に問うた主著二篇.






「君は恋愛をしたことがあるかい?」
という質問に、「いいえ」と答えざるをえない孤独な青年がいるとせよ。
「恋愛を知らないのか?だとすれば、君は愛とは何かもきっと知らないだろうな」
彼はそう笑われて、肩を落とすだろう。
そして、冷たい孤独な世界で、一人、読書に明け暮れるだろう。

だが、ブーバーは全世界の全ての孤独者に、「君は既に愛に生きている、少なくともそれを知ることはできる」と力強く励ましている。
ブーバーの文体は『嘔吐』のロカンタンの内的独白に、ショウペンハウエルのアフォリズム的な美文を足したようなメロディーを持っている。
ブーバーは孤独者である、否、孤高の哲人である。

ブーバーによれば、愛は、愛する者という対象が存在しないと生まれないというような条件的なものではない。
恋愛をしたことがないから、愛を知らない、愛について語る資格を持たないという者は、愛について無知であると、私は本書を読んで確信した。
例えば、未亡人だ。
未亡人は、戦争などで愛する夫を亡くしている。
彼女は今でも彼を愛しているし、毎日、彼の安らかな安息のために祈り、毎日、彼と過ごした懐かしい木漏れ日に溢れた日々に慰めを与えられている。
つまり、彼女は愛しているのである。
しかし、不幸なことに、彼女の愛の対象である夫は既に他界している。
愛に「愛される者」が必要なのは確かにそうだろう。
だが、その「愛される者」が、この世界に存在しなければならない、という条件は存在しないのである。
ブーバーの以下の愛論を見よ。

愛は<われとなんじ>の<間>にある。(p23)



この<なんじ>が、生きている必要は絶対的ではないのである。
喪に服しつつ、愛が<なんじ>との<間>で常に創造され続けるのである。
だから、「恋愛」とは、生きている若い男女に限定されてなどいない。

愛は<なんじ>にたいする<われ>の責任である。(p24)



ブーバーは、ここで「責任」という言葉を述べている。
私は今、未亡人と亡き夫との<間>を例にして愛について述べてみたが、最も考究すべきことは、孤独な青年が、どのようにして「愛」を悟り得るか?という命題なのである。
私は今、思うのだが、<なんじ>が、<イエズス・クリスト>である時、これは最高度の「愛」ではないのか。
<なんじ>に対して、「責任」を持つとは、<イエズス・クリスト>に対して「責任」を持つということである。
つまり、キリスト者として善く生きよ、ということである。
孤独な青年は、<イエズス・クリスト>の守護にある。
だから、たとえ快楽的な遊戯的肉慾に耽るような青年たちが、「お前にとっての愛は、常に存在しない人物に向けられているに過ぎない。つまり、生身の体を持っていない。真の愛は、常に肉体に対する愛欲を源泉とするのであり、したがって、女性が必要不可欠である」と糾弾しても、我々はこう静かに語るだけで最早、十分である。

“たとえ恋愛をしたことがなくても、我々はこの世界に生を受けた時点で、既に神に愛されている。神が我々に孤独を与えるのも、実は神の優しい愛の試練に他ならぬ”、と。

<われ>と<なんじ>とは、神に相対する自己である。
つまり、信仰の構図である。
<なんじ>は<イエズス・クリスト>という愛の人である。
この愛の人を愛することは、あらゆる隣人愛への可能的な源泉である。
したがって、<イエズス・クリスト>という全ての者を愛され、圧倒的な優しさで我々の孤独な肩に「体温」を蘇生させる神の子に対する愛こそが、この愛こそが、真実の愛である。
孤独な青年は存在しない。
ひとは神から創造された以上、愛され続けているのである。
神の属性には「永遠」「遍在」「全知」「全能」などあるが、それらを全て結晶化して一語で表せば「愛」になる。
神が愛である。
愛とは神であり、<なんじ>が愛の源、生命の甘美な滝である。
孤独は存在しない。
あらゆる孤独な青年は、全て、神の愛のさ中に立つ。

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