† 文芸理論 †

小説の基礎学習(5) 久生十蘭「黄泉から」

久生十蘭短篇選 (岩波文庫)久生十蘭短篇選 (岩波文庫)
(2009/05/15)
久生 十蘭

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久生十蘭の短編「黄泉から」は、死者への鎮魂を感じさせる、美しく幻想的な掌編である。三人称で、「映し手」(筆者の視点が同化した登場人物)」視点のスタイルである。

「起」(駅ホーム)

冒頭に場面、季節、時間、主人公(光太郎、美術商)についての説明があるので基本的な形式である。「ルダン」という男性が登場し、戦死者たちの追悼式をするという話を主人公にする。夏の昼のホームで「ネクロマンシー(降霊術)」の話が登場する。フランスの「レ・モール(死者の日)」の厳粛さと、日本のお盆期間中のお祭り騒ぎについての文化的差異を主人公が意識する。

「承」(回想)

「おけい」という名の主人公の幼馴染的な女性について思い出す。彼女は戦時中にニューギニアで死去。掘川で回遊した記憶(芸者が七人付き添うほどの富裕層)。

「転」(千代の訪問)

「おけい」の友達で、ニューギニアからやって来た「千代」との会話。
千代の話によれば、おけいは死ぬ直前に光太郎のパリでの様子を想起していた。おけいは死ぬ前にニューギニアで「雪」が見たいと訴える。気をきかした軍の体長が「かげろうの大群」がいる場所まで彼女を運んでやる。
千代はおけいが見込んだ女性で、自分亡き以後はこの女性と懇意にして欲しい(この人とならきっと幸せになれる)という淡い願いが込められていた。

「結」(おけいの墓参りへ)

光太郎はルダンさんが追悼式をするといっていた話を思い出し、おけいの墓参りに向かおうと決める。

「注目点」

(1) 文体の特徴

冒頭p5-7までの三頁までで、既に固有名詞の使用頻度がアクセサリー的に高い。無論、主人公が美術商であるということから不可避的に登場する設定の一部であるが、ある分野の専門的なキーワードが有する力によって「雰囲気」を出させるような意図が感じられる。(固有名の並列表記も多い)

(2) 改行の息継ぎ

わりと短く、2~3行に一度は改行して「読みやすさ」に配慮している。

(3)幻想性

先述したが、死が間近に迫ったおけいが、「かげろうの大群」を「雪」と錯視して美しいと感じる場面は幻想的で、どこか儚い。この場面の美は本作を根幹から支えている気がする。
おけいがニューギニアの森で琴を弾いている様子を想像する描写も美しい。

「光太郎は下目に眼を伏せてきいていたが、玲瓏と月のわたる千古の密林を洩れる琴の音は、どんなに凄艶なものだろうと思っているうちに、あの琴爪で琴を弾いているおけいのようすが眼に見えるようでふと肌寒くなった」(p21)




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