† ヨーロッパ庭園学 †

イギリス庭園を学ぶための基礎知識(1)【18世紀以前の古典主義庭園に見られる技法】

【18世紀以前の古典主義庭園に見られる技法】

「central axis(中央軸線)」

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axis 2

axis 3

「正方形・長方形など、整然とした庭空間の中央をまっすぐに貫いて走る通路」。
庭の中央は王侯貴族の行列が通る目的にも使われ、このようにシンメトリカルに左右に分割されることが多い。
庭空間の秩序化は、支配者が森羅万象を秩序化できる力の持ち主であることを象徴する。

「fountain(噴水)」

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十字軍兵士が遠征先で見たイスラム様式の噴水が西欧圏に影響を与えたのが始まりである。
神学的には「命の水」を象徴する。水は物理的に「低きに流れる」性質を持つが、それを逆に吹き上げることで自然支配者としての人間のテクネー(技術)の証明になった。古典主義庭園の要素として重要。

「garden ornament(ガーデン・オーナメント)」

「garden ornament(ガーデン・オーナメント)」 3

「garden ornament(ガーデン・オーナメント)」

「庭園装飾」。樹木や花はオーナメントとは呼ばないが、石材・金属・土・木材・ガラスなどでできた「装飾的な造作物」一般がこれに相当する。噴水や、さりげなく置かれた大振りなテラコッタの壷もオーナメントの一つ。
写真のように、装飾的な大型の壷を野外に立ててオーナメントにしたものは、特に「urn(アーン)」と呼ぶ。
庭園内にベンチや椅子が置かれている場合、そこは専門的に「seat(シート)」と呼ぶ。これは庭園の主人が自分にとって眺めの良い場所を選んで設置したりするものである。劇場の椅子をチェアーと呼ばないのと同様、庭園用語を用いるかどうかで本当に専門知識があるのかを見分ける指標になるといわれる。

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重要なオーナメントの一つに、「sundial(日時計)」の存在も欠かせない。公園にあるような花時計は近代の産物であるが、古典主義時代の日時計は太陽の運行によって移動する針の影から、時間を読み取る装置であった。庭園は象徴的小宇宙として象徴化されてきたが、日時計は大宇宙との連携を感じさせる重要な装置である。時計が発明されて日時計で時間を読み取る必要がなくなってからも、「庭=ミクロコスモス」という神秘主義的図式のシンボルとしての装飾になっていった。日時計以外に、「armillary sphere(天球儀)」も使用される。

「garden ornament(ガーデン・オーナメント)」 2

劇的な効果を狙って、古代遺跡の廃墟などの大仕掛けの見せ場を用意した場合、「focal point(フォーカル・ポイント)」、または「eye-catcher(アイ・キャッチャー)」と呼ぶ。
また、庭園内にある展望小屋にはオーナメントとしての機能だけでなく、そこから庭を観察できる機能も持っている。小屋の建築スタイルもイスラム風、アジア風、カントリー風など多様であり、これらは「gazebo(ガゼボ)」と呼ぶ。
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こうした小屋でも、樹木や蔓植物などの草花に囲まれたようにしつらえた庭の「あずまや」風の小屋を「arbour(アーバー)」、こんもりと茂った屋根付きのものを特に「bower(バワー)」と呼ぶ。わらぶき屋根を乗せ、柱を立てまわした素朴な構造のものは「summer house(サマー・ハウス)」と呼ぶ。

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アーバーに似て、蔓植物などを纏い付かせた「藤棚」のような屋根を持つあずまやは、「pergola(パーゴラ)」と呼ばれ、これは日本の平均的な公園でも時折見かけることができる。イギリスでは、この下のテーブルでちょっとしたお茶会を開いたりする。
上流階級の屋敷の庭園には「dovecote(ダヴコット)」と呼ばれる鳩小屋も置かれ、ここには食用の鳩が飼われていた。鳩は聖書のノアの方舟にあるように、「平和」の象徴である。

「trellis(トレリス)」

蔓性植物などを這わせるために、空間を直線的に仕切った格子垣。建築物の一部になっているものは「lattice(ラティス)」と呼ぶが、家屋から離れたところで造作物として造られている格子垣はトレリスである。
また、石壁やレンガ塀の表面に果樹を垂直に寄り添わせて育てる技法のことを「espalier(エスパリエ)」と呼び、壁に平行にのびた枝だけを残して、枝振りを「躾ける」、「誘引する」テクニックを「training(トレーニング)」という。美観のためと、石塀が吸収した太陽熱を日没後も果樹に与える知恵だとされる。

「flower bed(フラワーベッド)」

「flower bed(フラワーベッド)」

「flower bed(フラワーベッド)」  2

「flower bed(フラワーベッド)」  3

「花壇」。風景庭園では稀にしか見かけられない。多くの場合、地表面から数十センチ盛り上げて立体感を演出する。
また、古典主義が復活した19世紀ヴィクトリア朝庭園の中心的技法である「carpet bedding(カーペット・ベディング)」は「カーペット植え込み」とも訳され、整形的な空間に背の低い葉物や花の背丈をそろえて密植し、絨毯模様のような効果を出した方法である。

carpet bedding

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抽象模様、具象模様だけでなく、人物や祝祭的イメージが装飾されることもある。

「potager(ポタジェ)」

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「菜園」。修道院の庭園では、修道士たちによる自給自足用の野菜畑があった。フランス式庭園から伝わった用語である。

「parterre(パーテア)」

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「花や低灌木の規則的な植栽法。地表面や低い盛り土の上に、花や葉物で様々な図形を描く技法」。窓から俯瞰できる位置に造られることが多い。最盛期の花を植え、花期が終われば次にピークを迎える花を植え替える。庭をキャンバスに見立て、植物を絵の具のように扱う技法。フランス式古典主義庭園の重要な技法の一つ。

「knout garden(ノット・ガーデン)」

ノット・ガーデン

「knout garden(ノット・ガーデン)」 3

「knout garden(ノット・ガーデン)」 2

「knout garden(ノット・ガーデン)」 4

フランスのパーテアに対し、イギリスで流行した技法で、「結び目庭園」ともいう。基本的にはパーテアと同じだが、「色違いの刈り込み」で模様を描く点で差異がある。生け垣でリボンの結び目に似た模様を四角い囲みの中に描いていれば、パーテアではなくノット・ガーデンである。

「topiary(トピアリー)」

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topiary 2

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最も古い西欧庭園技法の一つ。ツゲやイチイなどの遅育性の樹木を刈り込み、ある種の形に見えるように育てる技法。動物から家、船、紋章、球形、円錐形など多種多様。盆栽の技法にも似ており、数百年経過して巨大化している例もある。古来より、庭師の技の見せ所であった。

「maze(メイズ)」

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「迷路」。人の背丈より高い生け垣で迷路を構成し、出口がなかなか発見できないように巧妙に設計された遊戯性の高い装置。
日常を異化する秘密の空間として、幻想的な仕掛けが用意されていることが多い。

「folly(フォリー)」

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ボマルツォの怪物庭園のように、庭には奇々怪々な造作物も数多く存在してきた。見る人をはっと驚かせ、時に悪趣味とも思える要素を孕んだこれらはメイズと並んで「庭の遊戯性」の場である。




「参考文献」


イギリス庭園散策 (岩波アクティブ新書 (110))イギリス庭園散策 (岩波アクティブ新書 (110))
(2004/04/06)
赤川 裕

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