† 映画 †

ビリー・ワイルダー『あなただけ今晩は』


あなただけ今晩は [DVD]あなただけ今晩は [DVD]
(2008/06/27)
シャーリー・マクレーン、ジャック・レモン 他

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 イルマ・ラ・ドゥース――60年代のカサノバ通りを代表する個性的な娼婦である。彼女はヘビースモーカーで、たいてい犬を連れて街路に立っている。相性となるシンボルカラーは緑色だ。リボンからスカート、化粧まで彼女は緑にこだわっている。シャーリー・マクレーンが演じたこのイルマという架空の女性には、何か不思議な魅力が宿っている。例えば、設定としての「雨の日の娼婦」――人はこれだけで何か憂鬱な気配を感じ取ってしまうものだが、イルマは雨の日も穏やかな快晴に変えてしまうような強烈な個性を持った女性だ。
 ビリー・ワイルダーの『あなただけ今晩は』(1963)は、『シカゴ』とディズニー映画をカップリングさせたような、観る人をどこか元気にさせる良い映画だ。生真面目だが、どこか明らかに抜けているところのある新人警官ネスター・パトゥーは、カサノバ通りで非合法に行われている売春活動を取り締まるために躍起になる。だが、警察の上層部もこの通りに御世話になっているというきらいもあって、彼は上司から逆に解雇されてしまう。お人好しで世話焼きでもあるイルマと、彼女に一目惚れしてしまったパトゥーは紆余曲折を経て共同生活を始める。だが、イルマはあくまでも男性相手に体を使う娼婦として生きているわけだから、パトゥーは日に日に嫉妬を募らせていく。そこでこの映画の喜劇性も相俟って、「X卿」なる架空の紳士に扮して彼女の上客に成り済ますという奇矯な行動に出るのだ。そのためにパトゥーは500フランを毎回酒場の主人から借金して、夜になると我武者羅に働いて返済に当てるという、まるでウォルト・ディズニーの中のキャラクターしかできないような行動を本当にするわけである。
 この映画は、シリアスな映画とはまた異なる喜劇的な「仕掛け」を随所に盛り込んでいる。やがてイルマがパトゥーの夜の仕事を「浮気」だと誤解してしまい、「X卿」と駆け落ちしようと企てる。だが、この紳士を演じているのはそもそもパトゥーなのだ。パトゥーが「X卿」殺人容疑で逮捕され、監獄から脱出するというストーリーラインも、まさにディズニー的なコミカルさで貫徹されている。二人は最終的に教会で結婚式を挙げるが、最早存在していないはずの「X卿」が、最後に教会の席から立ち上がって通り過ぎて行く――そんなユーモラスなラストで本作は終わる。
 ミニカーじみたパトカー、水中から登場する「X卿」、イルマの踊り、パトゥーの変装……全てが「エンターテイメント」の仕掛けとして働き、展開も二転三転するように構成されている。一人の娼婦が彼女を真剣に愛する男性と出会い、子供を孕み、結婚するという筋書きに過ぎないのだが、喜劇化によって全ては明るく平和的に仕上がっている。パトゥーを演じたジャック・レモンの演技もなかなか冴えている。
 







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