† 映画 †

『男が女を愛する時』のアンディ・ガルシアの魅力--愛する女性を一途に支える男の美学


男が女を愛する時 [DVD]男が女を愛する時 [DVD]
(2006/04/19)
アンディ・ガルシア、メグ・ライアン 他

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 『男が女を愛する時』――この映画の最大の魅力はアンディ・ガルシア演じるパイロットの夫マイケルの類稀なる寛容さ、一途な妻への愛情にこそある。男性である私でさえ、この作品でアンディが演じたマイケルの「いい男」ぶりには頭が下がる思いだった。本来なら、こんなアルコール中毒の妻がいたらサポート尽くしでノイローゼになるところだろう。それでも、映画は夫婦の支え合いを、というよりも「妻の更生」を真摯に描き出している。
 まず、冒頭のアンディのナンパの流儀が素晴らしい。妻で教師のアリスを演じるのはメグ・ライアンだ。明らかにマイケルがナンパしているように思えるのだが、すぐに彼一流のユーモアを効かせた「妻へのサービス」であったことが判明する。このエレガントで間違いなく他の男を嫉妬させる方法は、男性であるならば覚えておいて損はないだろう。私はこの映画を観てアンディ・ガルシアという俳優の個性に魅力を覚えた。彼には独特な高貴さがある。ヴィスコンティの『山猫』でファブリツィオを批判するキザな貴族役などがすぐにイメージできる。夫婦生活は愛情に満ちているように見えるものの、実は忙しさで心のゆとりを互いに持てないでいる。そんな二人はメキシコへ向かい、海辺の優雅なプールで甘美な一時を過ごす。こういう平穏でお洒落なムードの描写は、メロドラマ的物語において重要な方法論の一つである。
 だが、アリスはアル中だ。それに、明らかにエキセントリックな性格である。この酒乱ぶりは、長女のジェシの視点から描かれていて、かなりシリアスな印象を与える。酒で身も心も崩れさせていく母親の姿を涙ながらに見つめるジェシの姿には共感しないわけにはいかない。ちなみに、ジェシはアリスの連れ子で、次女のケイシーがマイケルとの間にできた娘だ。アリスのアルコール依存を、マイケルは懸命に支える。そう、アンディ・ガルシアはひたすら女性に尽くし、奉仕し、彼女を慰め、励まし、優しく抱き締め、キスをして、かと思えば猫のように妻を誘惑する――まさに絵に描いたような「いい男」をこれ程自然に演じ切っていること自体がまず素晴らしいという他ないだろう。繰り返すが、私が彼に惹かれたのはその「貴族的容貌」のためなのだが……。
 酔った勢いで母にぶたれて以来、ジェシがアリスを見る目には影ができてしまう。これがアリスにとっても後々まで後悔の種になる。更生施設に入ったアリス、そしてマイケルは中国系の家政婦の寛容さに甘える形で、二人の娘の面倒をみる。退院後、夫婦関係は元の良好さを取り戻すかと思いきや、アリスは「立ち直る会」にホームを見出して夫とは関係が疎遠になっていく。クリニックで出会った若者(フィリップ・シーモア・ホフマン)と仲良くなり、彼を家に招待したりしてマイケルを嫉妬させる。それでも、マイケルは紳士的にひたすら耐える。娘も育て、家政婦のことも気遣う――本当にこれ程女性に尽くす夫はいないだろう。とはいえ、アリスがマイケルと退院後にうまくいかなかったのは、彼が「哀れむような目」で見てきたからだという。アリスは本当の意味で夫から精神的に自立することを願っているようだ。つまり、マイケルはいわば「妻に尽くしたいタイプ」で、アリスも結婚前はそんな彼の魅力に惹かれていたのだが、いざ結婚して子供までできると、やはりいつまでも小娘扱いされるのに我慢ならなかったのだろう。このアリスの感情にも無論共感できる。換言すれば、映画に「敵」など存在しない。二人とも一生懸命人生を生きている。全身全霊で家族を愛そうとしている。愛に対して彼らはとてつもなく真剣だ。だからこそ、ぶつかり合う夫婦――これほど普遍的なテーマが他にあるのだろうか?
 マイケルは「立ち直る会」にアレルギーを感じている。そして、「離婚」を遂にほのめかされて、今までひたすら妻を赦し、愛し、耐えていた彼が大爆発するシーンはまさに圧巻だ。机を丸ごとひっくり返して怒鳴り散らす――この爽快さの中にも、無論絶妙なセクシーさが宿っている。とはいえ、この映画は本当に切実で重い主題に向き合っている。一つは「アルコール依存症」、もう一つは「夫婦関係の難しさ」だ。不倫とか、そういうアントニオーニが好きそうなスタイルはこの映画には向かない。マイケルとアリスという「夫婦」、そして二人の娘というこの「家族」関係を中心にした映画だからだ。
 結果的に別居の道を選ぶ二人――この辺りからも、簡単に「夫婦生活」といっても、実は内面ドラマがいかに複雑であるかが濃密に描き出されている。そして、マイケルは「会」でようやく心を開き、これまでの孤独感を告白する。この時のアンディの告白は本当に泣いているようで、心を揺さぶられた。マイケルは血の繋がっていないジェシにも実の娘と同じか、それ以上の愛情を与えている。父娘が別離の時に抱き合う場面は、『家族の肖像』で描かれた「家族であり続けることの難しさ」に対する強靭なアンチテーゼであると言えるだろう。この映画は家族の崩壊ではなく、その再生、絆を描き出している。
 非常に奥の深いテーマ性を持った映画である。甘い場面だけでなく、現実の厳しさもしっかり描き込まれている。そして、家族の絆、夫婦の愛の終わりと再生が伝わってくる。大切な人と大喧嘩してしまった後に、ふと手に取ってみるときっと発見があるに違いない。私の中では、メグ・ライアンよりもアンディ・ガルシアの魅力に釘付けだった。









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