† 美術/アート †

ナルキッサの系譜――「女性と鏡」のテーマについて

Henry Caro-Delvaille (1876-1928)- Nu Au Miroir
Henry Caro-Delvaille - Nu Au Miroir

 19世紀後半のヨーロッパ芸術における「女性と鏡」のテーマについて知る上で、アンリ・カロ=デルヴァイユ[Henry Caro-Delvaille (1876-1928)]の作品は特に印象的である。水面を見つめてうっとりする女性、あるいは鏡面の前に立つ女性は絵画における一つの主題として多く描かれてきた。基本的に、このテーマが流行したのは19世紀のことであり、主として反ブルジョワ的な上流階級の男性たちによる「性的自由」主義の表明として好評を博したとされている。こうしたいわゆる「ナルキッサ」(自体性愛的傾向を有する女性、ナルキッソスの女性化)を喧伝していたのが、19世紀末に興隆したアーツ・アンド・クラフツ運動、あるいはユーゲントシュティルの動きであった。

Caro-Delvaille -  La Brune au miroir のコピー
Henry Caro-Delvaille−La Brune au miroir

 当時のフランスの批評家で、初期印象派の擁護者でもあったシルヴェストルは、「女性と鏡」の結びつきについて以下のように述べている。

「女は己の源泉を身に携える方を好んだ。水を少しばかり手に取り、そこに自分の姿を映して見つめ、かくして鏡が発明された。それ以来、鏡は女にとって、最も信頼の厚い伴侶となり、この腹心の友の意見を聞いてからでなければ、女は一歩も外へ出なくなった」(*1)



Echo and Narcissus (1903) - John William Waterhouse
John William Waterhouse-Echo and Narcissus (1903)

Narcissus-Caravaggio (1594-96)
Caravaggio-Narcissus (1594-96)

 このテクストには、女性らしさを表す道具として「鏡」がいかに有効であるかを表明しているばかりか、神話的には「男性性」として表現されているかのナルキッソスが、実は「女性原理」を体現した存在であったことを如実に物語っている。ナルキッソスの本質は、ナルキッサへと開かれているのだ。このような女性と鏡の強い結びつきを前にすると、男性の中には風変わりにも、「鏡になりたい、何故ならいつでも彼女に見つめられるのだから……」などという一種のフェティシズムが芽生えてきてもおかしくはなかろう。いわば、男性にとっても、鏡を覗く女性の姿は、それだけ魅力的だという証左なのである。このテーマの文学的な相関として重要なのが、1880年に刊行されたゾラの『ナナ』であり、この小説にもナルキッサ、あるいは化粧などのテーマが現前している。

Christoffer Wilhelm Eckersberg
Christoffer Wilhelm Eckersberg

 因みに、ハンマースホイの師の一人であったデンマークの巨匠クリストファー・ヴィルヘルム・エガスベア(Christoffer Wilhelm Eckersberg/1783-1853)の「女性と鏡」の主題は、その後、ハンマースホイ自身が好んで描いた女性の背面の構図へと受け継がれていく。
 ブラム・ダイクストラによれば、Woman(大文字の女性)を象徴するものとして、他に「月」の丸さを挙げている。満月は鏡面とこの点で相関し、同時にこの丸みはヴァギナの丸みへと接続する。そこから「大地母神」のコードにも繋がると、ダイクストラは女性性を「円環」の原理によって捉えている。




「註」

*1――ブラム・ダイクストラ『倒錯の偶像―世紀末幻想としての女性悪』p239







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