† 文学 †

ルウルウにおけるピュアな恋愛観について――マリー・アントワネット・ドゥ・ミラボー=マルテル伯爵夫人『マドゥモァゼル・ルウルウ』


マドゥモァゼル・ルウルウマドゥモァゼル・ルウルウ
(2009/12/25)
ジィップ

商品詳細を見る


 マドモアゼル・ルウルウ(Mademoiselle Loulou)とは誰か?
 彼女は十四歳と六ヶ月で、マホガニー色を帯びたブロンドのヘアカラーが美しい少女だが、屋敷の中ではあえて粗末で奇妙な格好をしている。眼は黄色の入ったグリーンが特徴的で、着物の色と合わせている。姉のディアースと弟のアンリとの仲は大変良い。デュシという名前の、卵のような黄色の太った猫を飼っている。彼女にはイギリス人家庭教師がついていて、現在はバカロレア(フランスの大学入学資格試験)のために勉強中である。父親とも仲はファザーコンプレックス的なほど仲が良く、一緒に森へ向かうこともしばしばだ。周囲の女子が、どこか弱々しくセンチメンタルで神秘的に感じられるというルウルウの性格は、どちらかというとワガママで、オテンバだがけして憎めない可愛らしさで満ちている。ちなみに、ルウルウはハンサムな美男子の弱点を見つけるのがどうやら好きなようで、香水をつけた男は「デカダンス」として嫌っている。小悪魔的な性格の持ち主だが、その恋愛観は瑞々しく澄んでいるのが印象的だ。森鴎外の娘である森茉莉は、彼女のピュアな恋愛観を以下のように訳している。

 あたし本の中にある恋愛は馬鹿に面倒くさいと思ったわ……むずかしくって、いやに気取ってるような……あたしはそんなんじゃない、こう子供っぽいようなのを頭に浮かべてるの……可愛らしいような……優しい、こまっかい……そんなのに本を見ると、みんな飾りみたいなのか、運命的なのか、でなきゃあぐにゃぐにゃしたのばっかり! ……あたし、恋愛って気障(キザ)な、わざとらしいものでも、言葉でできたものでもないと思うの……(p135)


 ルウルウの「恋愛って気障(キザ)な、わざとらしいものでも、言葉でできたものでもないと思うの……」という率直で無垢な言葉は、本書の演劇を前提にした全ての台詞の中でも突出して光り輝いている。この少女の妙に静かな囁きは、我々も魂に刻んでおかねばならないだろう。
 舞踏会に参加すると、そこには美男子として名高いエメリヨンがいる。彼はルウルウに眼をつけて早速ダンスに誘う。彼は絵画愛好家として貴婦人たちの間で有名で、自分の肖像画をいつか有名な画家に描かせたい野心を持っているサロンの華の一人だ。しかし、ルウルウにはどうにもエメリオンは「話べた」に感じられる。彼女には、イイ男の弱点が見えてしまうのだ。「他の奥さんみたいなお行儀のわるい話はキライ」という言葉からも判るように、ルウルウはまだ「恋愛」というものを本気では考えていない年頃の娘である。それでも、社交界の若い男性諸氏の眼を惹き付けるルウルウの前に、ムッシュー・ドルステールという若者も現れる。彼はルウルウの「可愛らしさ」に恋をしてしまう。彼にとってルウルウという少女は、まだ貴婦人としての「美しさ」は備わっておらず、品性よりも「頓狂な女神」に似合うような「可愛らしさ」の結晶なのだった。ルウルウはガーデンパーティー(園遊会)はタイクツなので嫌いだが、ダンス、音楽、絵画は基本的に好きである。そして、無駄話をするよりも勉強が大切だと考えている点で、意外に向学心の強い少女でもあるようだ。
 ある日、ルウルウは父親の友人であるモントルイユ氏と、彼女に恋をしているドルステール、そして美男子エメリオン、それにマダム・ド・クレシーという御友達を連れて川へ遊びに行く。そこでルウルウは水車小屋の番人と話したりする。ドルステールはルウルウに夢中だが、帰宅して部屋に戻るなり、「あたし死んだってあんな人とけっこんなんかしないわ!」と小悪魔的に笑いながらベッドで眠りへ入っていくのだった。
 ルウルウという少女は、作者であるGyp(ジィップはペンネーム)こと、マリー・アントワネット・ドゥ・ミラボー=マルテル伯爵夫人のうら若き時代の「分身」でもあるという。本作は三島由紀夫、与謝野晶子らによって注目され、現在も女性読者を中心に人気が高い作品である。年頃の少女の「可愛らしさ」が全面に伝わるような、瑞々しい台詞が光る戯曲形式になっている。ちなみに、四方田犬彦氏の『「かわいい」論』によれば、「可愛い」という言葉は日本に特有の美意識であり、それは「美しい」とも一歩距離を置いている。「かわいい」という言葉はぬいぐるみやマスコットなどに使われることが多いが、ルウルウにもこの言葉がよく似合う。十九世紀フランスの上流階級の「少女」に焦点を当てた、魅力的でキュートな作品である。
 
 
関連記事
スポンサーサイト
*Edit TB(0) | CO(0)



~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


Back      Next