† ロココ論 †

ロココ時代のプリンセスの衣裳――アントン・ラファエル・メングスの傑作《マリア・ルイサ・デ・ボルボン=パルマ》

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アントン・ラファエル・メングス《マリア・ルイサ・デ・ボルボン=パルマ》(1765)

 アントン・ラファエル・メングス(Anton Raphael Mengs, 1728年3月12日 – 1779年6月29日)はスペイン王カルロス3世の宮廷画家であり、新古典主義における先駆者の一人とみなされるが、活動期間はロココ時代に跨がっている。
 この絵のマリア・ルイサの瞳の輝きを見つめていると、私が「ロココ」という文化に思い描く甘美さと高貴さ、明朗さ、前向きさの全てが表出しているように感じられる。非常に優雅で上品な雰囲気を醸し出していると同時に、観者に「高貴なるものへの意志」を宿さしめるような不思議な力をも感じるのである。二十世紀最大の社会学者であるピエール・ブルデューが主著『国家貴族』で述べた以下の言葉が想起される――「人は貴族に生まれるが貴族になるのである。貴族でなければ貴族として振舞うことはできない。しかし、貴族的に振る舞わなければ、貴族でなくなるのである」。(『国家貴族Ⅰ』p197)
 衣裳のディテールも驚嘆すべき緻密さで丁寧に描き込まれていて瞠目に値する。まるでそこに本当に当時の王女のドレスが置かれているかのような錯覚を感じさせるほどのリアリティーである。このドレスはロココ文化の保護者であったポンパドゥール夫人が愛した伝統的なRobe à la française(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)のスタイルだが、ところどころに若々しく瑞々しい緑色の植物の模様が散りばめられていて、まるで一面純白の雪原の上に飾られた控えめな蔓草たちが踊り始めたかのようだ。

フランソワ・ブーシェ《ポンパドゥール夫人》(1759)
フランソワ・ブーシェ《ポンパドゥール夫人》(1759)

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 マリア・ルイサの少女時代について、Wikipediaには以下のように記されている。

 同い年の兄フェルディナンドとともに、フランス人哲学者コンディヤックに教育された。母はマリア・ルイサを溺愛し、自分の甥でフランス王位を継ぐことが予定されていたブルゴーニュ公ルイ・ジョゼフ(母方の従兄)と婚約させようとした。しかしブルゴーニュ公は1761年に9歳で夭折した。
 翌1762年にスペイン王カルロス3世の次男で父方の従兄にあたるアストゥリアス公(後のカルロス4世)と婚約した。マリア・ルイサとアストゥリアス公は1765年9月4日、ラ・グランハ宮殿において結婚した。姑の王妃マリア・アマリアはすでに他界していたため、マリア・ルイサは最初からマドリード宮廷の女主人であった。ただし、王妃となるのは1788年まで待たされた。

出典:Wikipedia



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Marie-Louise de Parma as a Bride 1765 2

Marie-Louise de Parma as a Bride 1765 4

 左腕に注目すると、婚約者の少年の肖像画の腕輪をしていることが判る。この絵が描かれたのは1765年なので、腕輪の少年はアストゥリアス公(後のカルロス4世)だと考えられる。18世紀には恋人や家族の絵を身につけることが貴族階級の間で嗜まれていた。

COSWAY Richard A Gentleman c 1790
リチャード・コスウェイ《紳士》(1790)

COSWAY Richard Miss Franks c 1790
リチャード・コスウェイ《フランク夫人》(1790)

 この小さな卵型の肖像画に描かれたカップルたちは、何か我々のイマジネーションをくすぐる「恋愛物語」を秘め隠しているかのようだ。お互いに相手の肖像画を身につけるという恋人たちの習慣は、離れていてもいつでも愛を確認できる当時の重要な精神的護符の効果も持っていたのだろう。素晴らしい時代の残り香を感じさせる親しみ易いアクセサリーである。

COSWAY Richard A Lady c 1790
リチャード・コスウェイ《婦人》(1790)

SMART John A Lady 1782
ジョン・スマート《婦人》(1782)

SMART John William Henry West Betty 1806
ジョン・スマート《ウィリアム・ヘンリー・ウェスト・ベティ》(1806)

 こちらの少年は、19世紀ロンドンの人気子役だったウィリアム・ヘンリー・ウェスト・ベティである。
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