† 映画 †

エリザベス一世時代の宮廷社会――ケイト・ブランシェット主演『エリザベス』


エリザベス [DVD]エリザベス [DVD]
(2012/06/20)
ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ 他

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 『ブーリン家の姉妹』の後に観ると興味深いかもしれない。何故なら、この映画の主人公エリザベス女王(ケイト・ブランシェット)はナタリー・ポートマン演じたアン・ブーリンの娘なのだから。本作を観ていて気付いた点を以下に三つ挙げておこう。
 一つ目の見所は無論、誰もが注目したであろうエリザベス女王としての「戴冠式」である。教会には赤いカーペットが敷かれ、男性は臙脂色の、女性は緑色系統の衣裳に身を包んでいる。エリザベスは左手に十字架の付いた球体、右手に金の杖を持って戴冠する。荘厳な雰囲気を映像化したこの場面には絵画的な力が宿っている。この場面を観るだけでも本作には観る価値がまずあると言えるだろう。
 とはいえ、エリザベスはまだ若い生身の娘でもあるので恋愛が大切だ。ロバート・ダドリー卿が彼女の恋人だが、「誰を夫にするかで全てが決まる」と噂する宮廷の間では彼の地位の低さが揶揄されてもいる。たとえ純愛的な関係で結ばれる仲であっても、宮廷社会では「地位」、「出自」の正統性なしには縁談など成立し得ない。「陛下の御体は国家そのものだ」という台詞にそれがよく表出している。彼女の補佐役として登場する世事のスペシャリストのウォルシンガムは『クイルズ』でサド公爵を演じた俳優ジェフリー・ラッシュだ。
 ストーリーが進むに連れ、スコットランド出兵はやはり間違いだったという悔いや、結婚・世継ぎといった宮廷社会特有の重荷で悩むプリンセスの姿が描き出される。舞踏会、船上の夜宴など華やかで優雅な場面も本作の見所である。特に船上でのロバートと戯れているエリザベスの衣裳はニンファ的で美しい(この場で暗殺されかけるのだが)。
 この映画の二つ目の見所は、やはり「宮廷社会」の厳格にシステム化された冷酷さだと言えるだろう。ロバートを「私には男娼が一人、夫は持たぬ」と位置付けるまでに至るエリザベスの決断には、やはり宮廷の持つ機能的な排他性が具現化されている。映画ではこの時点を、いわばエリザベスが「女王」としての真のアイデンティティを確立するための萌芽として描いている(恋愛の放棄)。ロバートはこうして宮廷で排斥されるに至り、やがて暗殺派に加担してしまう。
 三つ目の見所は、エリザベスの影の敵とも言うべきカトリック総本山、ヴァチカンの存在である。つまり、イギリスのカトリック勢が反対勢力として登場するのだ(ヴァチカンの送る暗殺者はまだ有名になる前のダニエル・クレイグである)。恐ろしいことに、ヴァチカンはエリザベス暗殺を「神の意志」として解釈している。暗殺はスペインの政治勢力も企図するなど、エリザベスには常に敵が多い。しかし、エリザベスはウォルシンガムの助言でノーフォーク公の逮捕に始まる反対派粛正に乗り出し、長年仕えてきたバーリー卿も引退させ、着実に実権を握っていく。彼女が絶対君主、ヴァージン・クイーンとして戴冠するに至るまでには、ウォルシンガムの類稀なサポートも存在したということが映画では強調されている。
 純粋に映画として観た場合のドラマティックな展開という点では『ブーリン家の姉妹』の方がはるかに面白いが、本作には衣裳面など、当時の宮廷社会のディテールで秀逸な描写が多々ある。絵画的に観る映画作品として一見の価値はあるだろう。
 














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