† 小説草稿 †

聖テレーズ女学院






 聖テレーズ女学院はフランスに生き、弱冠二十四歳の若さで主に召されたテレーズ・ド・リジューこと、列聖された幼きイエスの聖テレーズに因んで設立された由緒正しきカトリック系の女子高等学校である。姉妹校は日本全国に七校、フランスには十三校存在しており、関東圏に存在する全女子高の中でもその偏差値はトップクラスを誇っていた。カルメル会の穢れなき愛徳と、イエズス会の厳格な智育に基づいた教育方針を重視する、このうら若き乙女たちの聖なる学園には毎年、難関な試験を潜り抜けた優等生たちが純白の衣裳に身を包んで、学園内の聖マリアン大ホールに集まる。彼女たちは小さな蝋燭をそっと両手で支えながら、学園長だけでなく、毎年入学式の度に来日されるヴァチカンの日本人枢機卿と、カトリック中央協議会の大司教の講話に耳を澄ませるのだった。女学院の敷地面積は東京でも稀に見るほどの広域を有し、北校舎、南校舎を含む白い壁の建物は外観こそロマネスク様式に見られる素朴な丸みを帯びていたが、その内装は朝香宮本邸に見られるような壮麗なアール・デコ様式に統一されていた。この学園に娘を入学させたいと望む多くの親が経済的に極めて豊かで、大病院の院長や名の知れた弁護士、大企業の代表取締役によってその過半数が占められていることは既に全国規模の統計調査で明らかになっていたが、彼らがこの学びの空間を、純粋にその建築における審美的観点からも絶讃していることは想像に難くない。実際、初めて我が子と聖テレーズ女学院の入学式に訪れたマダムたちの多くが、例えば南校舎の白階段に設けられたその手摺の美しいS字状曲線や、生徒会議室の煌びやかなシャンデリア、そして何よりも寄宿舎の生徒部屋一つ一つに、あたかもクリノリンの襞のように結わえられた窓辺のカーテンと薄いレースの輝きに眼を奪われ、感嘆の息を洩らすのだった。
 









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