† 小説草稿 †

大淫婦






 その日、僕は彼女の胸の谷間で目覚めた。早朝の柔らかい陽がカーテンの隙間から化粧台に並べられた数知れないガラス瓶に射し込んでいる。僕はこの聖女的な温もりの中で、いつまでも安心して祈り続けていたいと感じている。枕から少し頭を低い位置にして、彼女の胸の辺りに顔がある場所で、僕は祈らねばならないだろう。だが、何を祈るべきなのだろうか、これほど心地好い肉の貝殻に包み込まれてなお。これまで訪れた、あるいはイメージの中で訪れもしたどの教会でも感じられなかった温もりを、僕は今感じている。それを絶対的な神による包摂、などと奇矯な神学者であれば喩えることもできるだろう。僕は既に夜通し、彼女が与える圧倒的な快楽の虜になって、彼女の蕾の内はおろか、ベッドシーツのそこかしこに夥しい量の精を放っていた。全身が心地好く死んでいく気怠さの中に浸りながら、まだ唇の間近にはぷっくりした薄桃色の乳首が触れている。いつまで経っても、彼女の肉体が僕から離れることはない。だからこそ、と言うべきなのか、僕はこの温暖な楽園の中心にあってこそ、おそらく祈るべきなのだ。だが、今更何を真剣に祈れというのだろうか。これほど満ち足りた、もうあとは彼女の子宮が僕の精によって新たな生命を発芽させることだけが残された唯一の快楽であるかというほど、彼女と獣のように交わった後で、他に何を望むのか。誰のために、何のためにまだ祈らねばならないのか。そんな難解な命題にあれこれと精神を費消しているくらいなら、いっそのことこのまま彼女の、この滑らかでつるつるした白い尻を食蟻獣の如く舐め回している方が、僕には明るい未来が待っているような気がする。この女の肉の神殿の司祭職から、いったい誰が退くことを欲するだろうか。
 僕は聖書に伸ばしかけた手を引っ込めた。伸ばせば届く場所に、すぐ傍らに、あの丸い小型テーブルの上に僕が昔から愛用している、綻びた臙脂色の皮革に包まれた聖書が乗っている。ああ、今この状態だからこそ感じられることだが、聖書とはなんと淫らな書物であることか。別段、雅歌をわざわざ引用しなくとも、僕には堅苦しい民数記で十分、彼女への肉慾を補填できるだろう。あの硬式で威厳たっぷりの威圧的文体が、僕の理性を逆に溶かしてしまうのだ。神学者たちの授業を受けている時も、僕の理性は、ヒマラヤの山ほどにも屹立した巨躯な女の肉の化身に苛まれていた。ああ、女、肉、女、肉、女、肉……なんと素晴らしい神の被造物であろう。いつまでこうして乳首を子犬のようにぺろぺろと舐め回していても、まったく飽きない。ラテン語の授業や教父たちの書物ではわずか三十分で睡魔に襲われるこの僕が、ようやく見出した至高の聖域――そう、それこそが女の肉なのだ。僕は彼女の、あの女らしさが完璧なまでに凝縮された蜜の流れる蕾の味を知っている。知っているどころか、昨夜も僕は彼女の蕾に舌を入れて熱い喘ぎ声を溢れさせ、いつまでもぴったりと太腿の間に顔を張り付かせていたのだ。僕は舌を激しく回転させ、蕾の奥をねぶり回しながらも、赤子の小指ほどにまで萎縮した理性が、こう小声で囁いているのを耳にしてはいた。大淫婦ノ焼カレル火ハ、世々限リナク立チ昇ル……。確かに、僕は大淫婦の末裔ではあろう。だが、大淫婦にはその血筋の者特有の、異質な救いの形式といったものが存在するはずだろう。性愛に神の顕現を見出す宗教というのが、まさにそれだ。とはいえ、僕はこの内なる秘奥の宗教を、教師や学友たちに一言も話してなどいない。ただ神だけが、僕の心がすっかり肉色に毒されていることを御存知のはずである。
 僕が彼女と出会ったのは、人が寄り付かなくなった夜の修道院の廃墟であった。
 
 






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