† 小説草稿 †

世界の根源的な生き辛さについて





 志穂はヴァレンタインデーの日の放課後、ずっと前から好きだった隣のクラスの晴彦に本命のチョコレートを贈った。校庭の片隅に落日の陽が映える中、晴彦は爽やかな笑顔でそれを受け取った。そして、志穂の体を抱き締めると、「俺も前から、君のことが気になってたんだ」と言った。志穂にとって、それは信じられないほど嬉しい言葉だった。奇蹟という言葉は、この瞬間のためにあるのではないかとさえ感じられた。幼い頃から母子家庭で育ち、男女の相思相愛の関係についてネガティブなイメージばかり抱いてきた志穂にとって、まさに晴彦は唯一、信じられる存在になるのだと思った。これから、私は晴彦と付き合えるんだ、他の女子たちもしているように、自分もようやく日曜日には二人揃って映画館や雑貨屋に行ったり、御揃いのキーホルダーを付け合ったりできるようになるんだ、志穂はそう期待と夢を膨らませながら感じていたのだった。
 だが、志穂の初恋は、わずか三日で粉々に打ち砕かれた。その日、志穂は晴彦と最初のデートを記念して、遊園地へ行く予定を立てていた。天候も幸い、穏やかな春らしい快晴だった。志穂が遊園地のチケット売り場の前で待っていると、すぐに晴彦がやって来た。他の学年の女子生徒からも人気のある晴彦の私服はやはりお洒落で、志穂はその眩し過ぎる笑顔に思わず頬を赤くした。二人は並んで入園パスを買うと、入口に立っている係のお姉さんに渡した。ゲートを潜ると、ちょうど園内全体を見渡せるようになっていた。志穂は大きく息を吸い込み、青空を背景にして楽しげに並び立つ観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどを眺めた。隣の晴彦も早く遊びたくてうずうずしているといった表情だった。
 その時、突然、二人の背後で声がした。振り返ると、志穂よりももう少し年上の、大学生くらいの派手な女子二人組が、にやにや笑いながら立っていた。





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