† キリスト教神学 †

イエスとヨハネの聖なるkiss

The Madonna and Child with the Infant Saint John the Baptist

これは、マルコ・ドッジォーノ(Marco d'Oggiono /1475?~1530)の描いた絵である。
こうしたイエス×ヨハネのkissをテーマにした絵は、16世紀初頭の北イタリアやフランドル地方で、現存するだけでも20点以上描かれている。
1520年以降、この主題がテーマになり、いわば画家たちの流行となったのだ。
ケネス・クラークは、レオナルドのデッサンにも、現存してはいないが、これに類似したものがあったと推測している。

これは、一目見て解るように、レオナルドの《岩窟の聖母》の絵画素から多くを引用した絵である。
ただし、決定的な差異は、レオナルドのものでは、ヨハネとイエスという二人の幼児が見詰め合っているだけであったのに対して、それ以後のドッジォーノのものでは、二人は唇と唇を重ね合わせている。
これは異性愛中心主義化した正統派から「同性愛」として批判されたが、しかし実際に、現代的に見てこれはそれほど異端的な絵であろうか?

ここで概念として浮上するのは、レオナルドも多用した「二重人物像」である。
換言すれば、「双生児性」である。
この絵では、聖母マリアの足元で、二人の少年が甘美なkissを交わしている。
この二人の少年は、一方がナザレのイエスで、他方が洗礼者聖ヨハネであるが、双方は極めてよく似ている。
まるで、双子同士の少年が、仲良くkissしているかのようだ。

このようなテーマは、ドッジォーノだけではなく、ベルナルディーノ・ルイーニや、それ以後のルイーニ派によって数多く描かれてきた。
この絵を描いたドッジォーノ自身は、我々と同じくカトリックの信徒である。
彼は何故、やや誤解をも招きかねないこのような少年同士の聖なるkissをずっとテーマにし続けたのであろうか?

今回は、この絵について考察してみたい。
私が思うに、この絵で重要なのは、二人の頭上で微笑しておられる聖母マリアである。
「神の母」と呼ばれる聖母マリアの微笑が、いわば主の微笑を現前させているのだ。
聖母マリアの微笑は、神御自身の微笑の「代補」である。
他方、彼女の穏やかな膝元では、旧約聖書の完結者であるヨハネボーイと、新約時代の創始者であるイエスボーイが二人で熱心に接吻している。
これは、旧約と新約が、相互に深く結びついていることの証左として解読することもできる。
事実、洗礼者聖ヨハネが、ユダヤ教エッセネ派に属し、ナザレのイエスの教えのプロトタイプを用意していた、とする説は有力である。
この二人の接吻は、いわばユダヤ教と、ポスト・ユダヤ教と呼ばれるキリスト教の密接な連続性を物語っている見事な絵なのである。

ヴァレンティノス派の記事のところでも既に「聖なるkiss」については、その正当性を再評価してきたが、ここでも我々はkissに聖なる愛の本質的な現前を見出す。
ナザレのイエスは、kissを愛していた。
kissとは、身体的接触だけを表すのではなく、愛と愛の交通をも意味しているのである。
このヨハネと、イエスは、共に凄惨な「死」を遂げたことでも共通している。
ヨハネは「サロメ」の踊りを経て、斬首され、その骨は聖テクラが隠し持ったわずかな指のものを除いて、全て川に捨てられてしまったと伝えられている。(by ヤコブス・デ・ウォラギネ)
他方、イエスの十字架刑の苦しみは、現代でも復元されることがないほど怖ろしいものであった。
いわば、二人は「神とは愛である」(by ヨハネ)という最大のメッセージを伝えるために「殉教」したのである。
無論、ヨハネはイエスを「神」が「受肉」された存在者であると認めている。
したがって、ヨハネの天国の位階は、イエスのそれよりも遥かに小さい。
イエスは全能の父の右の座についておられるからである。

しかし、この絵では、そうしたキリスト教神学的なフレームを除いたとしても、どこかコミカルで愉快な、可愛らしい雰囲気が漂っている。
これは、裸の少年二人の秘密のkissであり、いわば絵を観る者は、その「隠された真実」を目撃するのである。
この絵においても、やはりkissは聖なるものとして描かれている。
キリスト教にとって、kissは大切な、優しさのシグナルである。
kissは信仰のない者の顔を明るくさせ、その奥におられるイエス様の教えへと導くようにさせる。
kissは聖性に帰属されるのであり、この貴重な絵は、その掛け替えの無い重要な証言なのである。
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