† 文学 †

江國香織の『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』の中にある、海辺について

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
(2005/02)
江國 香織

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「サマブラ」ですが、起承転結というほどのものはありません。
舞台は「海辺」で、主人公の壮年の女性(語り手)、若い男性と若い女性、主人公の飼い犬のみが登場します。
回想で主人公の過去が語られますが、そこで明らかになるのは彼女が「心の病」のようなものを療養するために海辺にいるということです。

作品の魅力は雰囲気であって、それに尽きます。

江國さんの作風には「柑橘類の香り」の表現が多いように思うのですが、この掌編でもオレンジが登場します。
「太陽の匂い」という表現はかなり素晴らしいと思います。
食品や、ティーポット、テーブルの上にある料理の種類などをいちいち細かく描写するのは、江國さんだけではなく私が読んできた女流作家の大半がそうです。
トニ・モリスンの『ラヴ』だったと思うのですが、これも「香り」とか「食材(サラダの盛り付け方などの細かいところまで)」の描写が異様に多い。

何故こんなしょうもないもんをいちいち細かく書くのか。
ボルヘスなら、「食べ物を口にした」だけで終わると思うのですが、女性原理がそうさせるのか、やたらと「香り」「触感」「食感」、総じて「五感的な表現/描写」が多いです。
これだけを前面で出されたら男性読者は「くっだらねーなぁ」になってしまうんですが、江國(ちなみに、江と書いて、次に帝國で漢字変換しないと出せないのがなんかアレですよね、帝國っておい……)さんの「サマブラ」の場合は、「海辺」とか「砂」とか「マイケル・ギルモアの本」とか、そういうのが雰囲気作りになっています。
雰囲気というか、これはもうそういう舞台装置なんですね。
画家で近いのは、表紙絵のホッパーではなくて、ワイエスあたりだと思いますね。
ワイエスには「海辺への渇望」のようなものが彼の絵の大半に感じられる(例えば農場に無造作に置かれた舟の模型など)のですが、同時に何か「ひきこもっている」ような「寂しさ」「孤独」をも感じるんです。
「サマブラ」の最大の魅力は、主人公の女性が半ば「世界」というものに失望していることにあるような気がします。
だから海辺なんですね、「療養所」としての。
いうなればどこかに悲哀のようなものが流れていると思うんです。
「自分の身体を好いてくれる男性などこの世界にいない」とか、使っている薬の名前とか、そういう主人公のナイーブな面に、私は癒されるのかもしれません。


ああ、今思うと、これは「詩」に近いのかもしれません。
詩というか、非常に短い映画というか、あまり目立っていない懐かしい画廊の絵というか。
私がここまで「サマブラ」にこだわるのは、やはり「海辺」という場所に癒しを感じるからです。
小説好きな人に、「海辺はどうもなー」という人がいるとしたら、それは「ごったがえした海水浴」みたいなものを想像されているような気がします。
実際、江國さんの「海辺」は、かなり静謐なところです。
静謐でありつつ、南の島特有の晴れ晴れしさは残しているという。


江戸川乱歩の「屋根裏」を読み終えたんですが、ひとえに短編小説といっても、本当に色々あるなー。
乱歩のこれは、起承転結がしっかりしていて、おまけにスリルもある。
でも、江國さんの方は純文学だからかもしれませんが、構成よりむしろ「雰囲気」というか、それこそ「五感」で感じて、というような具合です。


fsumm   er-top


「fragment_of_summer」



ちなみに、私が確か2年前くらいに使っていたテンプレートは、こんな感じでした。
「サマブラ」の影響もろって感じですねw
実は、サマブラの感想をブログに掲載するのは、これが初めてじゃないんです。
2年前くらいにも書いてました。
たぶん、自分が本当に大切だと思えるような小説は、そんなに多くないのかもしれません。





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~ Comment ~

NoTitle

女性なので、思ったことを。
作品が画面、なのだとしたら端から埋めてゆくことができない女性性を自分に感じています。
全体の中に一点だけある「ピーク」をわしづかみした後、
その周囲を偏執的に埋め尽くして広げてゆくのが、
書く喜びだと思っています。
関係ないけど今から手巻き寿司食べますヤッホウ。
[2010/01/18 19:52]  原 りえ  URL  [ 編集 ]

巻き寿司キャッホウ

巻き寿司ですかw

原さんのブログに俺もコメントしたりして抵抗ないですか?

原さんの書き方、俺初めて知ったよ。
ピークが初めに見えるわけ?
俺は書きながら探る、「書き探る」みたいな感じです。

でも俺は、ぶっちゃけ柑橘系の表現とかなんかオサレで好きなんですね。
あー原りえ嬢の詩でも読みたいなーとw
[2010/01/19 00:58]  鈴村智一郎  URL  [ 編集 ]

NoTitle

私とこのブログコメントだめやったんですか?!
あれひどいね。アメーバなんてもうやめたらいいのに。って私か。

たまたま、今日詩をかきました。
ただねえ、これはどっちかというとつまんねえほうの書き方をしてしまったやつです。

ちゃんとしたの、来週アップしようかな。
先日パフォーマンスに使ったテキストですが。

あ、実は詩板のずっと昔に、「赤い猫に寄せる」ってのひとつ投稿してたことあるんですよ。
地味なやつ。

>ピークが初めに見えるわけ?

ピークみたいのを、最初に見えるというかリズム感の中で一番高くFlowする部分をなんとなく、こう、側頭部で予感しながら、外堀を埋めていくような感じですね。短編はそうやってしか書けません。

長いものになると、そういうのがちょっとやりにくくなるので、小さめのサイズで繰り返していくんですが。
[2010/01/19 02:29]  原 りえ  URL  [ 編集 ]

アオミロロ!

イけるならコメント贈ってたけどさ。
なんかfc2からはレス無理みたいだ。

詩、投稿してたんやな。
まだ読んでないけど、また近々感想贈るよw
本気で書かなくても気分転換みたいなんでいーやん?
本気とハメ外しのサイクルって大事やんな。

>リズム感の中で一番高くFlowする部分をなんとなく、こう、側頭部で予感しながら、

あー、それやったらわかるぜ。
前の掌編でも、最初に燃え上がってるところをイメージしてたからなー。

香港におるんやったら持ち物とか気つけなあかんでー。

追伸

なあ、俺と同じ主題で短編でも書いてみない?
例えばさ、「海辺」「喫茶店」「赤いチューリップ」とか、三つのテーマを必ず入れるっていう、いわゆる三題話みたいな感じでTCに投稿してみるとかw
なんかテーマを共有しあって書きたいんだよな、練習用の記念にもなるしさ♪

香港おるから忙しいかー。
[2010/01/19 19:09]  鈴村智一郎  URL  [ 編集 ]

No title

今は香港ではなくて、家が燃える10分前のあわただしい通り雨の中で団欒ごっこしてます。

同じ主題、おもしろいね。
三語じゃなくて三題なのね。
いいよ、やろう。
TCに投稿、するのもしないのも、別のところに書くのも、なんでもいい。
別にこだわりはないけど、別のところを知らんだけやねん。

持ち物なあ。
いつのまにかタコしか持ってなかったりするから、
ほんま注意するわ。
こわい世界や。あはは。

主題は、どうやってきめようか。
お任せしてもいいし、相談してもいい。
[2010/01/19 23:10]  原 りえ  URL  [ 編集 ]

じゃあさ

やったーw

じゅあさ、俺からは舞台として「海辺」ってのをふるから、原さんは残り二つふって。
物語の中にキーワードとして入れるってのでも、「恋愛」みたいな大きなテーマでも、「砂時計」みたいな小物でも何でもいいよ。

要は、なにか三つのキーワードを共有させるってことやねん。

俺、明日休みやからまたわからんことあったら聞いてなー。

[2010/01/20 13:07]  鈴村智一郎  URL  [ 編集 ]

わかりました

海辺、と聞いて、頭だけすでに走り始めてしまうからあれやなー、どうしてもご都合主義に陥るなあ。

というわけで今たまたま聴いてた曲のタイトルからいただくことにした。
「空中ブランコ乗り」。

あとひとつやなあ。

「夜の虹」
これはねえ、私が子供のころからのテーマ、繰り返し夢に見るねん。
自分の腹の中にも、真っ黒な淵とそこから夜へ立ち上がる虹があるのをたびたび感じるねん。

それに、このイメージを、抵抗しきれへんような流れのなかである人と共有してしまった、っちゅう経験があって、
私は、その人と一緒に降りたイメージの底にとらわれてしまって抜け出せる気配がないねんなあ。
そこでしか共有できるもののない人やったからさ。

誰かの手で違う夜の虹を見せてもらえたら、といつも思っててん。
なんか個人的すぎるかねえ。

空中ブランコも虹も高いとこにあるなあ。首いたなるなあ。
頭が不自由や笑。

メアドあったほうが便利かと思ったんで、うえの欄にいれておいたですが、
これパソコンのんやし、家いるときしかさわらへんけど大丈夫かな。

コメント欄でのやりとりのほうがよければ、それでもいいよー。
[2010/01/20 13:51]  原 りえ  URL  [ 編集 ]

OK

こういうとき、ケータイあったら便利やなー。
ビックリされるかもしれへんねんけど、俺ケータイ持ってないねん(持たない主義っていうか)。
つっこまれるのが嫌なんで、ブログを愉しんでるみたいなところもあるんです。
こういうとき、ケータイでメールできたらいいのになぁ、とかマジで思った。

「空中ブランコ」と「夜の虹」。
特に夜の虹にかなり惹かれました。
原さんの内的な魂の記憶に繋がってるようでありつつ、私にもこの言葉自体から神秘的な気配が感じ取れるわけです。

オーロラでもなく、夜空にある七色の虹、ということなんやろか。
ジョバンニが見てるようなイメージで想像してたりすんねんけど、原さんはどんな感じなんやろ。

「空中ブランコ」やからって舞台を「遊園地」にする必要もないやんな。
俺からも一つ、原さんに共有してもらいたいから、冒頭だけ「路線図に存在しない駅で下車する」って始まり方で、後の展開は自由に、みたいなノリのやつでもOKやで。
要するに、海辺やったら自由度が低くなるかもしれんので、もう少し想像性のあるキーワードとして、「終着駅で下車してから~」みたいなのを考えてみました。

俺的には、原さんが提案してくれた「空中ブランコ」「夜の虹」は必ずキーワードとして入れます。

「海辺」か、俺がこのコメントで書いた「駅から」物語が発展するのがいいか、原さんが決めてみてください。
自由度は駅の方が高いと俺は思うで。

[2010/01/21 03:12]  鈴村智一郎  URL  [ 編集 ]

No title

私も、なんやかんやでちょいちょい携帯わざと忘れたりとめたりするよ。嫌いやねん。
じゃあ、海辺、なるべく使えたら使う。
ああそれでね。路線図にない終着駅、というキーワード自体、なんか私にはなじみが深いものでした、偶然。
ブログの「京橋駅」の扱いがそうかもしれない。

今日もバイト中、買ったばっかのポメラでぽちぽちメモ書いてましたわいな。
ほな、書けたらまた言います。
メール、捨てアドでもいいしあったら教えて。
コメント欄やと書いたやつ見せづらい。
[2010/01/22 01:11]  原 りえ  URL  [ 編集 ]

No title

色々ありがとう~。
今回、こういう企画で二人で創作することになって俺は素直に嬉しいです。

俺もじゃあ、執筆モードにゆるやかに入っていきます。
メルアドはちゃんと原さんのところに贈っておきますので、もし届いてなかったりメール来てなかったりしたら、また気軽に教えてなー。

たぶん、プロになったらこういうテーマ決めて一冊の本を何人かで出したりするんやろなー。
がんばろなー!
[2010/01/23 01:20]  鈴村智一郎  URL  [ 編集 ]















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