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† 映画 †

黒沢清と「燃える麒麟」について




200702       26143304

『叫』


黒沢清監督の『叫』を観た。
これはホラー映画といっていいのだが、幾つか印象的な要素が存在した。
一つ目は、「地震」である。
これは物語の筋と関係がないが、ストーリーが進むのと並行して絶えず室内で揺れが起きる。


二つ目は、「廃墟」である。
これは同じ監督の『回路』でもいえると思われるが、主人公の刑事はラストで廃墟へ訪れる。
そこは都市開発から忘れ去られた過去の遺物、時が停止したかのような孤独の聖域である。
廃墟は『叫』の場合、河川敷の沿岸に存在しており、作中で出現する赤いコートを着た「幽霊」が発生する根源的な場となる。



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『回路』


私は日本の監督では黒沢清が好きで、高校時代には『回路』を観た。
この作品でもやはり「廃墟」が登場する。
というよりも、それはカタストロフの象徴的な場として描かれている。
ひとの消尽、つまり都市空間からいつの間にか人間が消え去るということが、自然に起きる。
それはエドワード・ホッパーの絵画空間における無人的な感覚を、暗黒化させたような世界である。



私は小説でも映画でも、「恐怖」が持つ魅力的な効果というものを信じる。
それは、端的にヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』が、他の岩波文庫で出版されている海外作家の短編小説集よりも突出して面白いということに尽きる。
ジェイムズのこの名作は、「幽霊」についての多様な解釈を生む古典的怪奇小説であるが、こうした「恐怖」が持つ効果による「現実」の異化によって、私は不思議にも作品内部でその現実がリアルに感じることがあるのである。
「恐怖」というよりも、端的に「異様な現象」が生起するということが、平穏な現実そのものを再認識するための「通路」になる、といった感覚である。
だから、私は夏休みになると毎年「怖い話」が読みたくなるし、小さい頃から私はそういう現象を扱った作品に強い関心を持っていた。


そして、これは私がブログで何度も書いてきていることであるが、実質的に、「現象学」を創始したフッサールの関心は、とりわけ『イデーン』の場合、「幽霊」を「知覚」するとはいかなることかを明晰にすることであったと考えている。
アドルノの学位論文のテーマとなった「今、丘の上で木が燃えていても、他者が知覚したその同じ木は燃えているのか? 」ということも、結局は「幽霊」とは何であるかを知る問いなのである。
以下、少しだけ、ここで書いてみよう。


私はフッサールだけでなく、メルロ=ポンティやヴァルデンフェルス、デリダにアンリ、レヴィナスといった現象学系列の邦訳文献は全て持っているが(今は図書館でマリオンを借りている)、最も「幽霊」を知る楽しさを教えてくれたのは創始者であるフッサールに他ならない。
先のアドルノの例を出すと、今、まさに丘の上で木が燃えていたとせよ。
私がそれを知覚する、私がいう、「木が燃えている」。
同じ木を私の隣にいる彼女が見たとせよ。
彼女は私が確かに燃えていると確信しているにも関わらず、こういう。
「あれは木なのではない。あれは燃えている麒麟である。やがて疾走してこちらへ来るであろう」。
これこそが、現象学の出発点であり面白さである。
同じ事物でも、それが同じようにひとに伝達されているとはいえない。
現象を知覚するのは各主体の意識であり、その意識が仮に虚構的な直観を働かせれば、100人にとっては「燃える木」である事物が、最後の1人には「燃える麒麟」に見えるのである。


思い出してみよう。
バークリは「存在するとは、知覚されることである」といっている。
だとすると、「どのように知覚されたか」が重要になる。
事物に対して主体が何らかの幻覚により、「意味付与」を行っている場合、「幽霊」的な現象は常に起こり得るのである。


黒沢清の作品は、とりわけホラー要素の強い作品はフッサールの『イデーン』の香りを持っている。



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『CURE』


この作品では、「催眠術」が「魔術」として描かれている。
題材になっているのは、やはりオカルティックなものである。


私は現段階で、黒沢清の作品はこの三つを観た。
どれもなかなか興味深いのである。
特にこの『CURE』は惹き込まれる。


私が観た限り、三つの作品全てに俳優の役所広司が出演しているが、監督の黒沢と役所は雰囲気がどこか似ている。
もしかすると、黒沢清は自分が投影し易い「もう一人の自分」として、役所広司という俳優を使っているのかもしれない。


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