† キリスト教神学 †

聖母マリア論ーー竹下節子×ヤロスラフ・ペリカン


聖母マリアについて

マリアとはヘブライ語(マリアムないしミリアム)で「海の一滴の水」または「予言者」を意味する。語源を「海の一滴の水」だとしたのはヒエロニムスに由来を持つ。ヒエロニムスはヴルガタ聖書の翻訳の他、マリア教義を広く普及させたことでも知られている。

MAR(一滴の水)+YAM(海)
MYRIAM(女予言者、見神者)

世界中でマリアは名前としてポピュラーである。
MARIA(マリア)・・・イタリア、スペイン
MARIE(マリー)・・・フランス
MAY(メイ)・・・英米
MAROUSSIA(マルーシア)・・・ロシア

他にもMARION(マリオン)、MARYSE(マリーズ)など多数。



マリアの母アンナの場合も広く現代に名が受け継がれている。

ANNA(アンナ)・・・イタリア、スペイン
ANNE(アンヌ)・・・フランス
AN(アン)、NANCY(ナンシー)・・・英米
MINA(ミナ、ミンナ)・・・ロシア


幼女時代のマリアさまの可愛らしいエピソードが記されている。
これらの典拠は『ヤコブ原福音書』、『偽トマス福音書』、『偽マタイ福音書』、『マリア誕生譚』、『黄金伝説』などである。

マリアが六ヶ月になったとき、アンナ(ハンナ)はマリアを地面に降ろして立たせてみた。マリアは七歩歩いて母の胸にすがった。
竹下節子『聖母マリア―「異端」から「女王」へ』(p16)



「ヨセフ」について

マリアの夫である。
『マタイ伝』では、彼はダビデ王から二十七代目の子孫であるとされる。
聖書外典では、マリアもやはりダビデ王の家系であるとされている。
ヨセフはダビデの息子ソロモンの家系であるのに対し、マリアはもう一人の息子ナタン(預言者でもある)の家系でもある。

「ヨアキムについて」

マリアの父である。
彼は非常に裕福だったとされている。
彼の妻がアンナである。二人は三歳になったマリアを神殿に預ける。ここでマリアは白鳩のように穢れなく育てられたとされる。
そして十四歳で彼女はイエズスを懐胎する。

(15世紀、ケルン大聖堂に描かれたシュテファン・ロッホナーの『受胎告知』では、マリアは左、大天使ガブリエルは右に描かれている。これは例外的な構図である)

エリザベツ訪問に際して。

いずれにしても、マリアは身重の身で、ガリラヤのナザレから山里のユダの町まで一人旅をしたのである。
竹下節子『聖母マリア―「異端」から「女王」へ』(p19)



『ヤコブ原福音書』に依拠すれば、産気づいたマリアをヨセフが洞窟に案内し、産婆を急いで探しに出かけた。彼が帰還すると、光り輝く洞窟からイエスを抱いたマリアが現われた、とされる。これに疑念を抱いたサロメという女性が、信じられないといってマリアの体を調べた。直後、彼女は「私の不審は禍だ、私は生ける神を試みた」と嘆き、その手は火で焼かれたが、赤ん坊を抱き上げると癒されたと伝えられる。

いずれにしても、マリアが旅の途中でイエスを生んだことは間違いない。

マリアがイエスに与えた「愛」の影響は溢れるように大きい。

イエスは、律法と懲罰の「父性原理」に対する、自己犠牲と慈悲の「女性原理」を体現したといえる。イエスの愛と謙譲の教えの中には母マリアの影が濃い。
竹下節子『聖母マリア―「異端」から「女王」へ』(p33)



「STABAT MATER(スタバート・マーテル=母は立っていた)」、この言葉は、『ヨハネ伝』に基く。マリアはイエスの十字架の下で、耐え忍びながら立っていたとされる。マリアもここで息子の受難という巨大な十字架を背負っているのである。

「マリアとイヴの共通項」

生まれ方がマリアとイヴの場合、極めてよく類似している。
マリアは「無原罪受胎(Immaculata Conceptio)」であったが、イヴもアダムの右の肋骨から創造された当初は、無原罪(前―原罪期)であった。
今日でも聖母マリアへの祈りには「アヴェ・マリア」という言葉が登場する。
この「Ave(アヴェ)」を逆転させると「Eve(エヴァ)」になるように、マリアは常に「第二のイヴ」として認識されてきた。

このような相似関係はアダムとイエスの場合にも見出される。

「聖母マリアのイコンについて」

三種類ある。
1、聖母マリアのみ。
2、Hodighitria=道を示す聖母マリア(片手でイエスを指差している)
3、Eleousia=優しさの聖母マリア(イエスを抱き締めるイメージが濃いもの)

「ノートルダムについて」

ノートルダムとは一一世紀のフランスで生まれたマリアを讃えた敬称。
「我らの貴婦人」という意味を持つ。
十字軍の遠征の信仰的バックボーンにはノートルダムが存在する。

「第二ヴァチカン公会議以降におけるマリアについて」

1962~65年に開かれた第二ヴァチカン公会議において、マリア信仰は婉曲的に避けられた。
1978年にマリア信仰の篤いヨハネ・パウロ二世が法王の座につくと、マリア学は再燃した。
プロテスタントにおいても、1990年代にフェミニスト神学者たちがマリア信仰の立場に立って問題提起を始める。

「マリア学に関するプロトコル」

(�)テオトコス

「Theotokos(神の母)」という概念は、431年、小アジアのエフェソス公会議で決議された。エフェソスは女神アルテミス信仰の本拠地でもある。
キリスト教は民衆のアルテミス崇拝をマリア信仰へと移行させた、とされる。この会議ではマリア崇拝に反対していたネストリウス派(コンスタンティノープル総大司教)が締め出された。

(�)マリアの処女性

649年のラテラノ公会議で決議された。
マリアは生涯通して、すなわち受胎の時も、出産時も、出産後も、常に永遠に処女であるとされた。

(�)無原罪受胎

1854年、ピウス九世が宣言した「無原罪受胎」の教義である。
しかし、聖ベルナルドゥスやトマス・アクィナスといった神学者は、この教義を神学的正当性に欠けると評した。

(�)マリア被昇天

1950年11月1日、ピウス十二世が宣言した「マリア被昇天」の教義である。マリアは死後、天にあげられて、あらゆる天使と聖人よりも高い位に置かれる。神であるイエスの「ASCENSIO(昇天)」と区別するために、「上げられる」を意味する「ASSUMERE(被昇天)」と呼ばれる。

(�)教会の母/神の母

1962年の第二ヴァチカン公会議で宣言された内容は、マリアを「教会の母/神の母」とするものである。

(�)贖い主の母

1978年3月25日(受胎告知の祝日)に、ヨハネ・パウロ二世がマリアを「Redemptris Mater(贖い主の母)」とする回勅を出した。法王のモットーはマリアに対する「totus tuus(すべてを貴女に)」である。




(参考文献)

聖母マリア 聖母マリア
ヤロスラフ ペリカン (1998/07)
青土社

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聖母マリア
[原書名:Mary Through the Centuries : Her Place in the History of Culture〈Pelikan, Jaroslav〉 ]
ISBN:9784791756483 (4791756487)
335p 19cm(B6)
青土社 (1998-08-25出版)

・ペリカン,ヤロスラフ【著】〈Pelikan,Jaroslav〉・関口 篤【訳】
[B6 判] NDC分類:192.8 販売価:\2,730(税込) (本体価:\2,600)


絶対の優しさ、無私無垢の優しさ。
カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、イスラムなど、宗教の壁をこえ、時代や民族の壁をこえて、人々に慕われ続けるマリア。
マリア信仰とは何なのか。
語りつがれた伝承や、美術、音楽、文学などに描かれたマリア像をとおして、文化史のなかのマリアの位置をさぐる。

おめでとうマリア、恩寵のお方
ナザレの女予言者ミリアム
シオンの娘と予言と実現
第二のイヴとキリストの人間格
神の母、テオトコス
コーランのヒロインと黒いマドンナ
主のはしためと有能な女
礼拝の飾りと天使の合唱隊の指揮者
貞節の模範と恵まれた母親
悲しみの御母と女仲介者〔ほか〕


聖母マリア―「異端」から「女王」へ (講談社選書メチエ) 聖母マリア―「異端」から「女王」へ (講談社選書メチエ)
竹下 節子 (1998/08)
講談社

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講談社選書メチエ

聖母マリア―「異端」から「女王」へ
ISBN:9784062581370 (406258137X)
238p 19cm(B6)
講談社 (1998-08-10出版)

・竹下 節子【著】
[B6 判] NDC分類:192.8 販売価:\1,575(税込) (本体価:\1,500)




父と子と精霊―キリスト教は父性の宗教だった。
教義が排除した「女性性」を、しかし、民衆は聖母の中に見いだす。
「異端」の存在は、やがて「神」の座へと昇る。
キリスト教の「女神」、聖母マリア。
処女にして母、婢にして女王、人類が永遠に憧憬する、「女性的なるもの」の化身。
その多彩な容貌に、さまざまな角度から光を当てる。

第1章 マリアの生涯
第2章 マリアはどこから来たのか
第3章 諸宗派とマリア
第4章 民間信仰の中のマリア
第5章 ドグマ狂騒曲
第6章 奇跡を起こすマリア
第7章 マリアの七つの顔

竹下節子[タケシタセツコ]
東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。同博士課程、パリ大学博士課程を経て、高等研究所でカトリック史、エゾテリズム史を修める。比較文化史家・バロック音楽奏者。フランス在住。











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