† 宗教学 †

ピエール・クロソウスキー『古代ローマの女たち』におけるヘタイラ的祭式の系譜


クロソウスキーは『古代ローマの女たち』の中で、バッハオーフェンの『母権論』を概略しつつ、彼自身が強い関心を示した箇所を特筆している。
例えば、「アフロディテ・ミュリッタ崇拝」を「母権制」の起源として認めつつ、以下のように記している。
これらの祭礼は、かつてローマ建国以前の近隣諸部族、エトルリア、サビニ、ティレニアなどで実際に行われたという記録が残っている。

「アフロディテ・ミュリッタ崇拝においては、乙女たちの神聖なる売春を含む淫らで頽廃的な祭礼が行われた。この祭礼は……女神を演じる聖なる娼婦が、その相手役の神ベロス=ヘラクレスの役を演じる奴隷と共に民衆の前に登場し、神聖なる売春の交接儀礼が行われる際に、最大の山場を迎えることになった。この男神を演じる奴隷は、ヘラクレスと同じように、祭りの最後には火刑に処された」



この記録には、おそらくキリスト教グノーシス主義における、「フィビオン派」や「カルポクラテス派」が密かに行っていたと推定されている邪悪なミサを越えた衝撃性がある。怖ろしい祭儀の起源は、「母権制」の地下水脈を流れるアフロディテ・ミュリッタ崇拝における、「祭儀としての交接」の後の、「男神の火刑」という異様なプロセスを経ている。

古代ローマ帝国において、「運命の女神」として崇拝された「フォルトゥナ」には、習合的な性格が窺える。彼女は総じて女性原理に立つが、「雄雄しさ」や、「娼婦的性格」、あるいは「説得力を持った女性」などのように、そのつど性格を変容させてきた。

フォルトゥナに代表的に見られるような、古代ローマにおける「大地母神」的性格を有する女神たちは、当然のことながらキリスト教の教父たち(例えばテルトゥリアヌス、ラクタンティウス、そして名高いアウグスティヌス)などによって激しく論駁された。キリスト教的にみると、これらの女神の祭式は「魔女崇拝」と一致するからである。
代表的な「アフロディテ的性格=大地母神=遊女(ヘタイラ)的巫女の登場」を持つ祭式としては、「エレウシスの秘儀」、「エフェソスの秘儀」、「イシス神の秘儀」などにおけるイニシエーションに見受けられる。
これらは、間違いなく現代ヨーロッパ、アメリカにおける「魔女崇拝」、及びそれに付随した文化的イメージにも継承されている。

では、一体何故、秘儀のクライマックスにおいて、男神は「火刑」に処され、オルガスムのさ中で「死」を与えられるのだろうか?
これについて、クロソウスキーは以下のように鋭い指摘を放つ。

「死と復活のイメージが結び付いたオルガスムのイメージは、<不死性>の前兆となるのである」



オルガスムとは、いわばエクスタシー(脱自体験)によって宗教的恍惚に達することであり、この極北のさ中で、信徒はウィリアム・ジェイムズのいう「二度生まれ」を経験すると考えられる。
性交によるエクスタシーは、こうして「生」と「死」を結ぶメディウムになる。
アフロディテ崇拝を含む秘儀の多くには、こうしたエクスタシーと死の結合が存在している。

ちなみに、ローマ建国神話に登場する「メスの狼」であるが、プルタルコスの『ロムルス』が伝えるところによれば、この「メスの狼」の語源的由来は、「娼婦」を意味するという。
ローマの祭式は、現代世界から見てもショッキングな「黒ミサ的特性」を持っていたといえるのである。


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